456話 バイト

 そういやガンベルトも駄目になってたの忘れてた。

 インベントリを開いてあれこれアイテム出してリロードって、滅茶苦茶手間と時間、ついにで言えばもたつきも発生するからよろしくなさすぎる。軍隊があれこれとポケットやらマウント出来る物、リュックサックを持っているいる理由がよくわかる。


「接近戦に弱いのも、ARの欠点よね」


 ジャコンとレバーアクションをすると共に薬莢を弾き飛ばし、次の獲物を狙う。

 久々に西エリアの1-1に来て雑魚相手に銃の具合を確かめるなんて、本当に初期の頃を思い出す。あの時は接近戦が出来なくて銃そのもので殴ったりしたっけか。


「まー、それもスキルが無い時の話なんだけどさ」


 初心に戻って犬相手、しかも複数の奴に手を出したわけだけど、やっぱりスキルとステータス補正で大分動けるようになるってのを実感する。が、スキルとステータスを上げた所で攻撃力の大半は武器依存になるので、レベル差がかなりあるってのに結構殴ったり撃ったりしなきゃならない。


「資金の調達、装備の更新、レベルアップ……突き詰めりゃこの3個か」


 飛びかかってきた犬に対してARを構えて2射。いつも通り1発が囮、2発目が本チャン。避けた先を狙って当てればいつもの様にポリゴン状に消失していくので、またレバーアクションで排莢と次弾を込め……る前に、次のが襲い掛かってくる。なのでバックステップで軽く距離を取りつつ片手でぐるりと銃を回してレバーアクション。あー、これもうちょっと銃身詰めないとスムーズに出来ない。ついでに言えば銃剣を付けてたら自傷ダメージも入りそう。


「やっぱり実戦で使ってなんぼ」


 次弾を装填した所で飛びかかられるので、銃本体をぐるりと回し、ARの銃身側を握ってフルスイング。ぎゃうっと情けない鳴き声を聞いた後、もう一度ぐるりと回して構えなおしてからガシャガシャレバーを動かし、連続射撃で仕留める。


「いっちょ上がりっと」

 

 ふいーっと一息つき、がしゃがしゃと残った弾を抜いてから10発分を装填し直し。これ撃った弾の分考えなきゃいけないのちょっと手間だな。チューブマガジンだから増設するのも難しいだろうから、使っている間に残弾を体に叩き込まないと。


 正直な所、銃弾1発分の稼ぎにもなってないから思い切りマイナス行為ではあるのだが、慣れていない銃で稼げるような所に行くのは、これからの課題だし、上に行けば普通に火力が足りなくなる。


「レバーアクションはがっちゃがっちゃ出来るから楽しいけど、慣れないときついなあ」


 トリガーさえ引かなきゃ発射されないのでレバー部分を動かして具合を確かめながら少々考え事。今まで思いついた事も無かったけど、油差したらスムーズに動いたりするもんかね。変な所でリアリティいれてくるから可能性はありそうなんだけど。


「ま、思い付いた事はなんでもやるか」

 

 ふいーっとARを肩に担ぎながら一旦エルスタンに戻ろうかと考えて街の方に向かう。

 そして戻っている道中、初心者らしいプレイヤーがわーわーと騒ぎながらモンスターを戦っている様をちらっと見たりしながら戻っていく。それにしてもプレイヤーも結構増えた気がする。一時的にだけど私以外のガンナーが減った何て事もあったらしいけど……結構早い段階で人口は持ち直したし、難度が高いから敢えて選択している人もいるとか。


「まー、増えた理由は私じゃなくてポンコツなんだろうけど」


 視聴者数の多い配信者の影響ってやっぱでかいわ。今度ポンコツの奴にあったら褒めてやるか。


「活気があって人口が多いゲームってのは良い事なんだけど、マップ調整は都度するんかねー……」


 そんな事を考えつつ、騒いでいる低レベルのプレイヤーを眺めながらのんびりとエルスタンに。こういう時に帰還アイテムを使ってさっさと戻るべきなんだろうけど、普通に購入しておくの忘れてたわ。銃弾と銃本体買って満足する辺り、中々に間抜け。


 とりあえず使い切ったアイテムやらなんやらを補充して、可及的速やかに用意しなきゃいけないのはガンベルトか。ほんと、これを作った私天才的だったんじゃね?最初は小物入れのポーチで雑にパイプ銃を使っていたってのになあ。


「ちょっと振り返りつつも、改めて装備や装飾品を見直すのもいいか」


 うんうん、初心に帰るって大事。レベルが上がったりゲームに慣れてくると忘れる事や気にしなくなって雑になるところもあるし、この機会に色々と見直そう。


「たまには後ろを振り向くってのも悪くないしな」


 鼻息交じりにあれこれ考えていると、視界に入ったモンスターを素早く射撃、レバーアクションで薬莢を飛ばすと共に次弾の準備をするが、追撃は無し。倒したモンスターの向こう側で尻もちを付いているプレイヤーが手を振ってこっちにお礼を言っているので手振り返す。


「私も甘ちゃんだわ」


 自分自身を鼻で笑いつつ帰還。






 エルスタンのいつもの定位置、中央広場のベンチに座ってメニューをぽちりながら今後の事を整理する。とりあえずやらなきゃいけないのは金策。それとあれこれ人任せにしておいたこと諸々。合金製の銃やら特殊弾、アタッチメント開発、レベリングに……って事を考えてみたら結構忙しいわ……と、言ってもまずは。


「金だよなあ」


 今のとこ出品したのが捌けている状況ではない、こつこつって訳じゃないけど、少しだけあった貯蓄も銃と銃弾で吹っ飛んだし、財布の中身はすっからかん……あれ、金策ってどうやるんだっけか?よくよく考えてみたら真っ当な金策ってやってきてないわ。火薬に酒、銃弾とアタッチメント、需要が狭いところを狙って売り払いまくって、未発見の情報を流して高額な情報量ふんだくって……。


「やってる事がカタギじゃねえ」


 やっぱり改めてこのゲームしっかりやった方が良い気がする。


「悩み事ですか」

「金が無くてなぁ」


 不意に声を掛けられてくる方に軽く顔を向ければ、ブルーメタリックのがっちりした鎧を着こんだシェパード顔が近くに立っている。そういえばこいつの事久々に見た気がするわ。


「幾らくらい欲しいんですか」

「そうねー……5000兆円くらい?」

「使い切るのが大変そうですね」


 はっはっはと楽しそうに笑っている犬野郎にため息を吐きだしつつ、ベンチの背もたれに体重を掛けてだらっと足を延ばす。


「いつもは自宅に引きこもってると聞いたんですが、此処にいるって事は相当参ってるようで」

「ん-、ただの気まぐれだって」

「クランも抜けて気ままにやっているらしいですし……どうです、うちにきません?」


 そういえば最初の頃も誘われたっけか。

 

「ガチでやってる同士だから良いけど、私のやりたい事とあんたのやりたい事が噛み合ってないじゃない」

「最近うちのクランでもガンナーが増えましてね、教育係をやりません?」

「ベテランガンナーくらい抱えなさいよ」

「トップガンナーが欲しいんですよ」


 私の座っている隣にがしゃっと鎧の金属音をさせながら座ると、メニューを開いてクランメンバーの一覧を見せてくる。って言うかすげーな、文字通り大手のクランなのでメンバーの数が3桁近いわ。


「よくもまあ集めたもんねぇ……」

「そういう訳でどうです?」


 ぐいぐい来るなあと思いながらも、ちょっとやってみたいという感じもあったので、犬野郎のクランに一時的に所属する事に。


「講習料は高いわよ」

「後で請求書送りますね」


 冗談なのかマジなのかちょっとわからん。

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