18章

455話 再スタート

 久々にやってきたT2Wの自宅。

 何だかんだでメンテとアップデートは5日で終わったのだが、仕事の方が忙しくなったおかげで1日出遅れた。が、何かしら急を要するイベントがある訳でもないし、これと言って特筆すべきことが無い。


「フィーラ、インフォ」

「はい、此方です」


 うちのNPC本当に優秀。

 メンテナンスで特に気になる所は無し、そりゃメンテナンスなんだから当たり前だろって。次にアップデート内容、こっちも大幅に何か変わった……ってのは見られない。大まかには職業ごとのバランス調整、人口増加における各マップの調整、その他細かい所の便利機能を追加している。ざっと一覧を確認した所で私が使えそうなのは、マーケットボードの実装とそれに付随したユーザーオークションくらい。今までは露店しかなく、目的の物を探すのが大変で不便だったので、この機能の実装でそれを無くそうという魂胆らしい。

 いきなり全員使えたら露店の販売権を課金で購入した人が損してるじゃねえか!ってなるところもしっかり対策済み。課金で露店を使えるようになってると、街中ならどこでも手元で売買できるようになってる。流石にダンジョンだったりモンスターのいる所では使えない様に調整はされているので、金の続く限りダンジョン潜りって言う無茶は出来ない。

 オークションに関しては下限上限の値を決めて出品するだけ。これもマケボ機能の1つで、ちょっとした目玉機能っぽい。こっちも露店の権利持ってないと出品出来ないので課金したのが無駄になるって事はなし。


「露店環境がダメになるんじゃないかなって思ったけど、あえて露店だけで販売っての有りか」


 どっちにしろそこまで環境の変化はなさそうだ。運営の考え方を深読みしたらもうちょっと経済を回したいって所かな。まあ、あんまりにもインフレが起きたら何かしら対策も入れてくるか。


「何かしらのイベントやら記念クエストみたいなものは無いから、本当にメンテと細かいアプデだけだわ」


 とりあえずこれからどうしようかって話になるのだが……。


「まずは装備の揃え直しか」


 例のイベント後、特に揃えたわけでもないので、服装兼防具は相変わらずの加圧シャツにスーツの下だけって言う何ともちぐはぐな状態。武器に関しても手持ちの奴は全部あげたり破損したりなんだりで自宅に並んでいる武器しか持ち出すことが出来ない。


「どうするかなあ……」


 なんか此処まで来たら残ってる銃やら防具、全部売り払って新調するってのもありだな。ちゃんと売れるかどうかって話があるけど、一応マケボに出せば取り下げない限りはずっと出品できるみたいだし、全部投げっぱなしにしておくのも良いか。

 とりあえず自宅の装備ラックから色々引っ張り出し、羅列されているアイテム欄をチェック。

 ランペイジMk2、G4シュバルベ、Dボア、カスタムM2ラビット(劣化)、110mm対艦ライフル、CH、TH、鳳仙花、パンツスーツ(黒赤)、パンツスーツ(黒)、眼帯、ツナギ(青)、キャットスーツ 雪迷彩外装 防寒コート。

 防寒装備は使うからキープしておくとして、他は全部流しちまうか。全部ガンナーギルドで購入できるのを確認しているし、なんだったら自作用のレシピも手に入っている。って事は全部流して新規装備に資金を回そう、そうしよう。防具周りはそこまで高級品でもないから安めに設定しておいて、銃器は店売り半額くらいで捌ければ問題ないべ。


「ざっと計算してえーっと……1丁2万くらいで捌ければ良いとして、20万くらいになりゃいいか」


 そんなわけで早速手元のマケボ画面から手持ちの銃をぼんぼん出品していってずらっと並べておく。これ匿名で出せないのはトラブル回避かな。まー、そんなすぐ売れないだろう。防具に関してもまあ適当に1万無いくらいで投げ売り。そういやゴリマッチョの奴に結構な金払って作ってもらったってのに何とも雑に処分しようとしている気がする。でも全部支払ったのは私だから問題なし。


「じゃあ、出てくるわ」

「いってらっしゃいませ」


 自宅の事は相変わらずフィーラに任せつつ、出る前に少しだけため込んでおいた資金も引き出してゴリマッチョのクランに向かう……が。


「すいません、薫さんまだ来てないんですよ」


 折角来たのに……と言うのはこっちの都合なので、まあ忙しいんだろ。ログインしたら私が来たって事を伝えてくれと伝言を残しておいて、武器の調達か。このままガンナーギルドに行って新しい銃器を仕入れるとして、どんな銃を使おう……そういえばアサルトライフルだけはT2Wでは使ってないな。RPGなんかもあるみたいだし、いつもより重火器メインに武器を組むのもありっちゃあり。

 それと地味に使ってみたいのがクロカバの方でも使っていたフックショット。発射機構は先込め式でいけるだろうから、使い捨て運用すれば結構いい感じになると思う。まあ、結局の所、思うだの何だのっていういつもの見切り発車。


「それじゃあまあアサルトライフル買いに行くか」


 いつも私のタイミングで良いことがあるわけないわな。これまでがずっと上手くいきすぎただけだわ。





「つーことで、良い銃くれ」

「あ?」


 ガンナーギルドの受付でいつもの様に不愛想なNPCと会話、と言うただの無茶ぶりのような独り言を言いながらギルドショップの銃一覧を眺める。こういう武器やら防具のリストを見るのって楽しいのよね。昔は攻略本にイラストが乗ってたりしたけど、今じゃしっかりゲーム内で描写されるからそういう楽しみ方も無くなったわ。なんだったら○○Wikiなり攻略って入れたら出てくるから、そのうち攻略本って文化も無くなりそう。


「なんだったら忍者の方に力入れるのも有りかなあ」

「……買うのか、買わんのか」

「じゃあ一番安い奴」


 銃器の値段って銃の大きい分類と、その中の細かい分類で変わるのをすっかり忘れてた。同じハンドガンでもオートマチックの方が安かったり、銃器のステータス、特に固定値の部分や元の装弾数で値段もかなり変わってくる。その中でもアサルトライフルって一番安い奴でも15万はするから、結構な高級品だったわ。


「試し撃ちは?」

「いいわ、どうせこれしか買えないし」


 メニューでぽちっと購入し、インベントリに追加されたアサルトライフルを確認してから一応射撃場に持って行って無限弾をチューブマガジンにとちゃりちゃりと押し込みながら、次の予定を考える。

 とりあえずカスタムでちょこっと弄って銃剣付けて、アタッチメントで使いやすさを上げてから……上げてから?

 あれこれ作るってのも結局アイディアだけ出してトカゲの奴に丸投げしてたし、銃器製造、アタッチメント、防具諸々……自分から作るって事しなくなって結構長い気がする。いや、まだサービス開始2ヵ月手前くらいなんだけど。


「初心に戻って、1人であれこれしてみようか」


 弾を入れ終わった銃を構えて一発。レバーアクションで空薬莢を弾き飛ばすと共に二発、三発と連続射撃、このリロード含めて撃ち切るまでを2セット。あれこれと考え事をしながら撃ち、込めてを繰り返してから一息入れて最後の空薬莢を飛ばす。そして硝煙が燻る中、大きくそれを吸って吐き出してからきっと目線を鋭くして気合を入れる。


「久々に、1人気ままにT2Wの世界を見て回ろうじゃないか」


 そして決意表明を口にしたうえで、撃ち切った銃弾を残った金で購入してからギルドを後にする。

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