407話 いないとき
『アカメさん、早く復帰して!』
近寄って来る昆虫軍団を相手にしながら、絶賛魂が抜けている最中のアカメさんを防衛。あまりのショックに一旦ゲームから弾かれたっぽい?何かしらリアルで異常が出たら、一旦HMDを装着しなおしてログインしなおさなきゃならないから、それで手間取ってるくさい。
正規手順でログアウトしてない場合は、キャラだけ暫くその場に残って無防備を晒すだけなのだが、それがどれくらいの時間かと言うのは分からない。後は何よりもアカメさんが精神的ショックから如何に立ち直るかってのが問題になるんですけどね!
『うーん、これはちょっとやばいかもしれません!』
SMGのマグを変えながら冷静に状況を確認していく。結構きついビジュアルなのは確かだから、あれと戦わなきゃいけないのは我慢できないのかな?
それにボスの猛攻がかなりきついみたいで、引き付ける役目をしたシャールさんと中間援護としてアオメさんが前に出たけど、結構押されてるから速く合流したい。けど、HMDを外して落ち着いてログインしなおして、状況を確認して……あれ、結構時間掛かるんじゃ。
『まだ戻ってこないのか!』
『あの反応から暫く戻ってこないかもしれませんよ』
『だったら俺たちでボス片付けるしかねえだろ!』
って言うか今まであれだけ気高い人だったわけだけど、まさか虫1匹に此処まで取り乱すなんて思わないでしょ!文字通り魂の抜けている状態で棒立ちしているのと、自分のリロードタイミングでの雑魚の攻撃でちまちまとアカメさんにダメージが入ってるし、本当に早く戻って来てほしい。
『ちょっとだけカバーしてもらえないですか!』
『無理に決まってんだろ!アオメが行け!』
『今抜けたら前線崩壊するじゃないですか!』
このパーティは色んな意味でぎりぎりだったんだってよくわかる。1人欠けるだけでこんなにも大変になる何て思いもしなかったし、なんだったらアカメさんがいかにパーティの中心なのかもよく思い知らされた。そして何よりも、ここで全滅して戻っていたら多分だけど、このパーティは解散する可能性もある。
それぞれがアカメさんの事を良く知っているから「私が居なくなったのは悪いけど、3人もいて突破出来ないのか」なんて事を言ってがっかりされるだろう。
(誘ってもらったのにそう思われるのは非常に嫌ですね)
相変わらず魂の抜けた状態のアカメさんを見ると、蜘蛛の糸が当たって拘束され始めているのでSMGで無理やり蜘蛛を倒し、アカメさんを中心に雑魚を散らす。新しいマグを入れつつ、この状態のアカメさんを守りながらってのは大変過ぎる。
(うーん、とりあえずやってみるかな)
ごそごそとインベントリからグレネードを出して1発、近くに投げ、アカメさんをかばう様にして、爆発。
『おい、何やってんだ!』
『塹壕掘ってるんですよ!』
狼の時と違って相手の向かってくる速度が遅いのもあって、2発グレネードを使う余裕もあって、そこそこ大きめの穴と言うか塹壕が出来上がるので、アカメさんをそこに落としてから使っていない外装で上部を覆って一息。我ながら良い機転の利かせ方です。
『こっちはどうにかするんでさっさとボス倒しちゃってください!』
そう言うと、2人揃って言われなくてもと返事をしてくる。あの2人、本当に仲が良いです。
『後ろは大丈夫そうですね』
『戦闘ができねえって言うけど、俺たちと比べたらに決まってんだろ』
『それくらい分かってますよ』
ああいえばこう言って、本当に粗暴な人だ。
戦い方も雑だし、立ち回りも危なっかしくて見てられない。そのくせやたらと喧嘩っぱやく、こっちに突っかかってくるから本当に面倒だ。
だからと言って、この人だけ気に入らないからパーティを抜けるってなると、それはアカメさんへの裏切りになるからできないので結果我慢するしかない……よくよく考えてみれば自分含めて、癖のある人物ばかり集めて戦うのが趣味だと思う。そうじゃなきゃ、シャールのような狂犬を扱う訳がない
(まあ考えてみたら元々のカンパニーの方も癖しか無い人ばっかりでしたか)
少しそんな事を考えていたら、毒液が飛んでくるので横っ飛びローリングで避け、構えなおして毒液を撃ってきた奴に射撃して反撃。毛虫のような奴がばちゅっと弾けてポリゴン状に消失していくのをちらっと見てからボスとやり合っているシャールの援護再開する。
『全然ダメージ入ってないみたいですが、手抜いてるんですか?』
『殻がかてえんだよ!見りゃわかんだろ!』
そう言うとリボルバーでばしばしと撃ち込んでいるのを見せつけられる。確かにさっきから硬質な音をさせているのは分かっていたが、あんなにも弾かれるものか?リボルバーの威力は基本的に高いから攻撃力分はダメージが入っているとは思うが、固定まではいかない?
『貫通弾とか作ってないんですか!』
『っせーな、お前はあるのかよ!』
『あんなコストの掛かる物大量に持ってくるわけないじゃないですか!』
銃弾は量産されて安価になったけど、特殊弾はとにかくコストと手間が掛かり過ぎて量産しにくい。しかも何だったら一発の威力や効果が劇的に変わる訳でもないので趣味の領域を出ない。実用化している特殊弾は自分の知っている中では見た事がない。アカメさんならそういうのを作っていそうだけど、マガジンを使う銃だから、相性が悪いし持ってきてないだろう。本当だったらリボルバーの方がそういった特殊弾を使う分には相性がいいのに、用意してないのはいかがな物か。
『そりゃあんな高くてめんどくせえもん持ってる馬鹿なんていねえだろ!』
よくわかってるじゃないですか。僕が思っている以上に冷静で、よくガンナーの職を考えているって事なのかな。だとしても、気に入らないというか、合わないのは変わらないですが。
『装甲抜くぞ!』
シャールが手首を捻るようにして、撃ち込むとやけに回転の付いた弾丸が虫ボスの胴体にめり込むと、節の連なった胴体の1つに大きくひびが入る。なんかああいう攻撃的なスキルが多い上に、装填速度を見るたびにガンナーにしては攻撃的なスキルが多いのも僕と噛み合わない、ああくそ、もうちょっと協調をして……。
『追撃!』
『分かってますって!』
シャールが片手で装填しつつ、虫ボスの噛みつきを避け、反撃をしている所を援護するようにARで追撃。装甲を抜いた所は後部側なので、狙いが付けにくくやはりシャールを基点にして狙わせないと駄目だ。
なので執拗に攻撃をしているところにカットインいれてこっちに注意を向けさせ、懐に入っているシャールが攻撃しやすいようにする。ここにアカメさんがいればもう少し動きやすいんだろうけど、まだ復帰して来ない。
『サンダースさん、まだですか!』
『わかんないですよ!』
それもそうか。あんなに強く当たっている辺り、結構自分自身もイラついてるのか焦ってるのか……。
『集中しろ!アカメがいなくても出来るだろうが!』
『だから分かってますよ!』
僕が誰に憧れてここまで来たのか言うまでもないだろう。
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