408話 戻ったら終わってら

 グラフィックが良くなってもどこかで「まあゲームだし」ってのが頭にあったから、リアルではあるけどリアルではないって思っていたけどありゃ―ダメだ。何て言うか本能的に気持ち悪いって言うか、あんなにも拒絶反応が出るとは思わなかった。

 一気に嫌悪感と心臓がバク付いたせいで、システム側から緊急ログアウト処理をされた。リアルで何かしらの問題が起きたと判断されてしばらくログインも出来ない様にされるとは思わないって。

 

「あー、はっず……」


 いい歳して少女みたいな声上げて叫んでシステムに弾かれるって情けない。フルダイブだから結構言われた多安全面が確かめられたと思って納得しよう。納得してやらんとやってられん。

 安全面を考慮しての緊急ログアウトだから、少しだけ時間を置かないと再ログイン出来ないのは結構ネックだな。ログアウトしている時に、やっている事も済ませているし、いつもの様に何かしらの計画を立てるって時間もそんなにない。


「どう倒すかなぁ、あれ」


 そういえば最初のイベントの時にあったけど、苦手な物に対してフィルターを掛けてグラフィックを弄るって方法があったな。あのちんちくりんの奴、ホラーが苦手だからリアル造形しているゾンビにフィルターを掛けていたんだったか……確かあの時、フィルター掛けたらゲームのうんたらかんたら言ってご高説をのたまった覚えがある。フィルター掛けてますって自分で言わなきゃ分からんものだが、ここでこっそり使ってましたってすっげえダサいな。


「とりあえずそろそろログインかな」


 HMDを被っていつもの様にゲームを起動してみると、再ログイン可能まで20秒とあるのでそのままいつもの体勢で寝転がり、ログイン待ち。規定秒数が終わるといつものようにログインが出来るので少しの間だが、どう動くかを考えておく。




 

 そうして視界が開けると、真っ暗。

 しかも体勢的に穴に落ちてるみたいだし、もぞもぞと体を捻って穴から頭を出して様子を伺う。


『帰ってくるのおせーぞ』

『おかえりなさい』

『あ、外装かけっぱでした!』

 

 一応いきなり攻撃貰って死ぬって事を警戒したのだが、落ちていた穴の周りで休憩を入れている3人がすぐに声を掛けてくる。こうして余裕を持って返事するって事は、ボス自体は処理済みって事か。

 私の上に乗っていた外装をサンダースが回収し、手を貸してくれるのでそのまま引き上げられて穴の外に。


『結構早くきた割にはしっかり片付いてるわ』

『大変だったんですよ、アカメさんが急に棒立ちするから防衛戦になりましたし!」


 ログアウトしたら体って残るんだな。まあ、これは正規手順を踏んでいない場合の不正防止って事だろ。


『まー、いきなり苦手なもん出たからちょっとビビっただけよ』

『ちょっとで緊急ログアウトされるとは思いませんが!』


 おっと口答えしたな、こいつ。


『まー、アカには悪いがボスは頂いたから、とんとんにしてやるよ』

『大分ギリギリでしたけどね』


 何となく仲の良くなっているアオメとシャールを眺めつつ、わしゃわしゃとサンダースの頭を撫でまくってやる。はっはー、髪の毛ぐしゃぐしゃにしてやったぜ。


『はーあ……私がいない間にボス以外で何かあった?』

『トカゲ顔のガンナーとピンク頭のガンナーが先に行ったぜ』

『見知ったビジュアルの奴だな。あいつらも上位狙いか』


 ボスのリスポン時間が分からんから先に祭壇を見つけてからとんぼ返りでボスを倒しに来るって可能性の方が高いな。あいつらも何だかんだで強いし、アホな動きはしないはず。そもそも2エリア目に来ているなら狼を倒しているわけだし、ここに来るルールも理解しているから、動きの淀みはないか。


『そうなると、やっぱり私が不意に落ちたのがまずいか……悪かったな』

『随分可愛い所を見れたので、僕は良いですけどね』

『まー、苦手なものは苦手ですから!』

『面白いもんみれたしな』


 ああ、こいつら暫くこの事擦ってネタにする気がする。あまり弄るって言うか他人に言いふらすような事はしないだろうけどさ。


『ああ、そうだアカメ、特殊弾持ってねえか?』

『急ねえ……なしたのさ』

『戦闘中も言ってたんですけど、リボルバーの方が特殊弾向きだから用意しろって言い合いしたんですよ』

『それで持っていそうなアカメさんに聞いてみた!って事です!』


 確かにリボルバーの方が特殊弾は使いやすいが、何で私が持っていると断定してるのやら。確かに何個かは持ってきているけど。


『ある事はあるけど、分けるほどの量は無いから期待するじゃないわよ』

『レシピはあんのか」

『欲しかったらやるよ、使う材料が結構めんどくさいからあんまり数作れないから趣味の領域だけどな』


 煙草を咥えてレシピはどこやったかな、とメニューを開いていたのだが……レシピよりも完成品をくれてやった方がそこから解析なり分解なりで自分で作った方がいいかもしれんな。そう思ってインベントリを開いて、何個かあった特殊弾をシャールの奴に投げ渡す。

 わたわたとそれを受け取ると、まじまじと見ながら色々と声を漏らす。ついでにアオメとサンダースも欲しがっていたので渡しておく。


『さて、と……私がいなかった分、取り戻さないといけないが、いけるか?』

『6回目の襲撃はまだみたいですし、ここでもう1エリア先に行きたいですね!』

『俺らは証手に入れたが、アカメは持ってんのか?』

『ログみたらしっかり手に入れてたから大丈夫。一旦中身抜けて体だけ残ってたのがよかったっぽい』


 これに関しては偶々なんだけど。


『トカゲ、ピンク髪のガンナー以外とは会っていないですから、まだ先頭を走れそうですよ!』

『先頭引っ張って楽した分仕事しろよ?』

『ボス結構大変でしたからね』


 やっぱりそこそこ根に持ってるじゃないか。

 悪かったって、ボス開始すぐに落ちて、全部任せたってのは。

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