第12話 六番目の魔獣 序
アディはかつて、あの仮面の魔法使いに問いかけたことがあった。
「ルヴィウス、あなたは、その傷など簡単に治せるんじゃないの?」
その問いかけに、ルヴィウスは仮面の奥で低く笑った。
「その問いかけは、かつて、エルグに……お前の兄、エルグヴィドーに嫌というほどされたさ」
呆れたように笑いながら、ルヴィウスは無造作に仮面をとる。その下の醜い顔を直視することを躊躇い、身構えたアディだったが、ルヴィウスを見て目を見張った。
肩の辺りまで伸びた真っ直ぐな黒髪、理知的で少し冷たい雰囲気の顔立ち……アディと年も変わらぬ一点の曇りもない完璧な美貌がそこにある。傷一つない滑らかな顔に、アディは呆気にとられた。
神の造作としか言い様がない芸術品は、にこりと微笑む。
「これくらいのことは、簡単に出来る。だが、この見せ掛けの魔法に何の意味があるだろう」
少年の容貌のルヴィウスは小首を傾げた。
「周囲を不快にさせないとか……好意を抱かれるとか……」
指折り数えてアディが述べる利点を、ルヴィウスは鼻で笑い飛ばす。
「愚かだな、アディ。そして、幼い」
憐れみの目すら向けられて、アディは肩を竦めた。ルヴィウスは再び仮面をつけながら、静かに告げる。
「誤魔化して逃れようとしても、真実は一つだ。真実は決して変えることが出来ない。だからこそ、真実とは尊いのだ」
魔法使いらしいことを口にするルヴィウスに、アディは目を瞬かせた。
「誰の台詞?」
「一般過程の教科書を読み直せ」
気軽にアディの頭を叩いたルヴィウスに、アディは目を細めて眉間に皺を寄せ、眼前の相手をよく見ようとする。
六つ名の魔法使い、ニレ・ルヴィウス。
「じゃあ、ゼラとあなたの関係は、真実ってことになるのかな?」
相手の真意が読み取れず、嫌味とばかりに投げかけた言葉に、ルヴィウスは肩を竦めた。
「さぁな」
仮面の下のルヴィウスの表情は読み取れない。
一生勝てない相手。
アディにとって、それはルヴィウスだった。
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