第7話 魔法医の戦い方  序

 アディラリアが十四歳で『星の舟』の一般過程を卒業し、一人の師匠について専門課程を学ぶ段階になった時に、十二歳のゼルランディアはすでに師匠の元にいた。

 年下の姉弟子に戸惑いはしたが、顔立ちこそ地味だが、緩やかに波打つ長い黒髪を背に流し、ヘッドドレスに膨らませた長いスカートのクラシックなワンピース、エナメルの靴……まるで人形のような出で立ちのゼルランディアを、アディラリアは嫌いとは思わなかった。

 表情が乏しく、大人しく、口数の少ないゼルランディアは、師匠であるルヴィウスの傍をほとんど離れることはなく、ルヴィウスの言葉に文句もなく従う様は、弟子というよりも奴隷に近かった。

 アディラリアはルヴィウスの元で薬草学と術具作りを学んだ。

 アディラリアは優秀な弟子で、すぐにゼルランディアを越す知識と技術の持ち主になった。

 紫の光沢のある長い真っ直ぐな銀色の髪を背に流し、際どい服を纏う、長身で細身だが胸の大きな彼女は、眠たげな少し垂れた目の物凄い美人だった。

 アディラリアはその美貌にそれなりに自負があったし、性格だとて悪いとは思っていなかった。

 けれど、ゼルランディアが十八で『星の舟』を離れるまでに、八人の相手から求婚されたのに対し、アディラリアはことごとく恋人に逃げられ、その後も恋人と長く続いたことはないという事実には、アディラリア自身も苦笑するしかない。

 それでも、アディラリアはゼルランディアが大好きだった。

 おっとりしていて、料理上手で、事細かに気が利き、大人しく、控えめなゼルランディア。


 ルヴィウスは彼女を金で買い上げ、奴隷のように扱っているのだと、アディラリアはずっと思っていた。


 けれど、ルヴィウスとアディラリアが学会で『星の舟』から離れた時に、『星の舟』の学術棟の薬剤研究室で事故が起こり、研究室が半壊した時に、その知らせを聞いたルヴィウスの慌てぶりに、アディラリアは驚かされた。

 ルヴィウスは学会を放って即座に翼竜を駆り、『星の舟』に舞い戻った。

 研究室に置いていた薬剤が心配だったのだろうと口さがない連中は言ったが、ルヴィウスは『星の舟』に付くや否や、自分の宿舎に駆け戻り、火傷の手当てをしていたゼルランディアの小さな体をしっかりと抱き締めたのだった。

「ごめんなさい、ルヴィウス。研究室が……」

 しょんぼりと俯くゼルランディアに、仮面の奥からルヴィウスは低く言った。


「お前が無事ならいい」


 ルヴィウスは誰よりもゼルランディアを愛していた。

 誰が後ろ指を差そうとも、アディラリアだけは知っている。

 顔立ちも地味で、魔法の腕が突出しているわけでもなく、体付きは痩せて貧相で、性格も大人しいこと以外特徴のないゼルランディア。


 ルヴィウスとゼルランディアが婚姻を結んだのは、その事故の直後……ゼルランディアが十五の時だった。

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