第4話

 タイガは生死の境を彷徨うほどの重体だった。


 元々種族的に強靭な肉体と強い回復力を持っていたが、タイガは一般的な青虎獣人族を遥かに超える強靭な肉体と回復力を誇っていた。


 そのタイガが内臓をズタズタに粉砕されて死にかけたのだから、ゼノビアの前蹴の破壊力は空恐ろしモノだ。


 だがタイガは助かった。


 ウェストミース公爵家は武を誇る家柄だけに、一般には出回らないような貴重な回復薬を秘匿しており、跡継ぎを助けるために秘蔵の回復薬を惜しみなく使い、何とか助ける事ができた。


 だが、助かったとは言え、跡継ぎを殺されかけたウェストミース公爵の怒りは尋常ではなく、ゼノビアを不敬罪と殺人未遂で処刑しろと学園側にねじ込んだ。


「学園長!

 タイガを殺そうとした雌餓鬼を厳重に処罰してもらおうか!

 死刑だ!

 それもただの死刑では許さん。

 生きたまま腹を割き、内臓を引き出して塩を塗り、地獄の激痛の中で殺すのだ!」


 学園側は恐懼するも、従う訳にはいかなかった。


 平等など有り得ない貴族社会の学園ではあるが、今回の件に関してだけは、権力ずくの決定や隠蔽する事が不可能なくらい、現場を見た証人が多かった。


 そして何より、明らかにタイガの方に非があり、普段からの傍若無人な行いもあり、タイガは忌み嫌われていた。


 被害者と言っていい、全生徒の面前で婚約破棄を言われたクラリスは、ウェストミース公爵家ほどではないにしても、財力で王家に影響力を駆使できるクレア伯爵家の令嬢で、面目を守ってくれたゼノビアに味方する可能性が高いのだ。


 そして何より、ゼノビア自身が大問題だった。


 隣国ダルハウジー王国は御忍び留学と言って、ゼノビアの身分を明らかにしていないが、ゼノビアの物腰や護衛に送り込まれた同級生の人数を考えれば、力を持った高位貴族である事は明らかだった。


 もしかしたら、王族である可能性すらあった。


「しかしながらウェストミース公爵。

 ゼノビア嬢は明らかにダルハウジー王国の高位貴族の御忍びです。

 王族の可能性すらあります。

 だとすると、不敬罪で罰せられるのはタイガ君になります。

 それを無理にゼノビア嬢を処分すれば、戦争の可能性すらあります」


「戦争だと?

 望む所だ!

 ダルハウジー王国を攻め滅ぼして、我が国の版図に加えてくれる」


「本気でございますか⁈

 もはやクレア伯爵家の支援はないのですぞ。

 いえ、全生徒の前であれほどの恥をかかされたのです。

 支援どころか敵に回ると思われるべきですぞ。

 今回の件に関しては、王家もクレア伯爵家に強く同情しておりましょう。

 ダルハウジー王国との戦争中に、名誉回復のためと、クレア伯爵家がウェストミース公爵領に攻め込んでも、王家は仲裁してくれませんぞ!」


「うぬぬぬぬ」


 猛るウェストミース公爵を学園長が宥めていた頃、クレア伯爵も今後の方針を王家と相談していた。

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