第2話
タイガは憎々しげな表情を浮かべ、殺意の籠った視線を女に向けたが、迎え受ける女を泰然自若、柳に風といった風情だった。
「随分と偉そうな講釈を垂れてくれるが、お前のどこが獣人なんだ?」
「王家が人族の王国に留学しておいて、中途半端な人化で登校するほど不躾ではないのだよ。
半端な未熟者君」
「じゃかましいわ!
あの世で公言を後悔しやがれ!」
タイガは瞬時に舞台から女に飛び掛かった。
青虎獣人特有のバネのような筋肉が、タイガを大型弩砲から放たれた極太の矢のように、瞬時に女の目の前に移動させた。
刹那の時も待たずに、タイガが右前脚で放った焦げ付くにおいがしそうなくらいの爪撃が、必殺の勢いとパワーを乗せて女の顔を胴体から跳ね飛ばすかに見えた。
だが女は、先程タイガの視線を柳に風と受け流したのと同じように、いとも簡単に軽やかなステップでかわしてみせた!
必殺を信じて疑っていなかったタイガは、一瞬何が起こったか分からず茫然自失になった。
だが流石に青虎獣人だけあって、そんな隙を長く晒すことはなかった。
直ぐに女の攻撃に備えるために全身の筋肉を適度な緊張と弛緩の状態にし、わずかに重心と姿勢を後方に置いた。
女が攻撃してきたら、カンターで反撃するためだった。
だが女はタイガの隙をついて反撃しようとはしなかった。
反撃ができなかった訳ではない。
タイガの眼に映る女の余裕をもった笑顔が、雄弁にその事を物語っていた。
余りの悔しさに、タイガは無意識にギリギリと牙を噛みしめてしまった。
その余りの悔しさを嫌というほど自覚させたのが、無意識に噛みしめた牙が自分を傷つけて口の中に流れた、鉄錆の風味がする血の味だった。
それほど悔しかったのだ!
確かにタイガは刹那の隙を見せてしまったが、その隙を突いて反撃できる戦士は、この学園に五人といないだろう。
そして反撃できたとしても、青虎獣人特有の強靭で柔軟な筋肉を持つタイガならば、逆にカウンターで反撃していただろう。
だが、そう、だがだ。
余裕の笑みを浮かべる目の前の女なら、タイガのカウンターに対して、更にカウンターを放てたと感じられた。
「てめぇだれだ!
名前と種族を言いやがれ!」
タイガは憎々しげに、吐き捨てるように言葉を放った。
屈辱だった。
今迄人を人と思わず生きてきたタイガは、自分から人の名を聞いた事などなかったのだ。
今迄はタイガに媚びへつらう相手が、自分から進んで名を名乗って来た。
タイガを忌避し、近寄って来ない者など無視し、名前を聞く事なければ興味を持つ事もなかった。
それが自分から名を聞くことになってしまったのだ。
怒りに全身が震えるほどの屈辱だった。
だがそれでも聞かずにはおられなかった。
だが女の返答は、タイガの斜め上を行くものだった。
「人に名前を聞くのなら、まず自分の名前から言いたまえ」
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