人狼姫はつがいが現れ婚約破棄された伯爵令嬢を護る。

克全

第1話

「俺は真実の愛を見つけた。

 番いを見つけた。

 千万に一組と言う幸運に恵まれたのだ!

 だからクラリス嬢との婚約を破棄する。

 そして改めて、ハリファックス子爵家のドナネ嬢と婚約する。

 文句のある奴はいるか!」


 王立貴族士族学園の創立記念パーティーの晴れやかな場で、青虎獣人族のタイガが、割れ鐘のような濁った太い大声で宣言するのを聞いて、クラリスは小さな心の痛みと大きな安堵を感じていた。


 吹奏楽部が晴れ舞台で演奏しているのをタイガが大声で止めて、皆の注目を一身に集めてから、ハリファックス子爵家のドナネ嬢と一緒に壇上に登っての宣言だった。


 ドナネ嬢は、赤狐獣人特有の小狡るそうな上目使いでタイガを見た後、その視線をクラリスに向けて、勝利者特有の勝ち誇った眼をしていたが、身体は批判を恐れるように背を丸めて足を縮め、何時でも逃げ出せるようにしていた。


 だがクラリスにはドナネの視線などどうでもよかった。

 元々度重なる大魔境への遠征で財政が傾いたウェストミース公爵家が、鉱山収入と商売で財政豊かなクレア伯爵家からの資金援助を目当てに申し込んだ政略結婚だ。

 クラリスにはひとかけらの愛情もなかった。


 小さな痛みを感じた直ぐ後で大きな安堵を感じて、クラリスは今まで自分がどれほどタイガに不安と恐怖を感じていたのかを自覚した。

 何と言ってもクラリスは雑食の黄人族だ。

 大型肉食獣人のタイガの側にいると、どうしても食殺の恐怖を感じてしまうのだ。


「待ってもらおうか。

 一方的な婚約破棄は仁義に反するのではないか?

 それでは、代々王国の武を預かるウェストミース公爵家の金看板に、泥を塗るのではないか?」


「何だと!

 俺様に逆らうと言うのか?

 どこのどいつだ?!

 隠れていないで出てこい!」


「隠れてなどいない。

 私はここにいる!」


 学園一の乱暴者と言われるタイガに対して、正々堂々正論を叩きつけたのは、金髪を肩までのストレートに伸ばし、輝く金の瞳を持ち、金色に見間違う黄色い肌と言う容姿の、誰もが視線を逸らす事のできない絶世の美女だった。

 学園内で多くの人とそつなく交流していたが、クラリスと特に親しいと言うわけでもない女性だった。


「はぁあ?

 外国からの留学生は黙っていてもらおうか。

 この国にはこの国のやり方があるんだよ!」


「国が違おうと、女性に対して一方的に婚約破棄を言うのは礼に反する。

 しかもこのような晴れがましい日に、多くの人の前で宣言するなど、非常識もはなはだしい。

 礼を弁えるのなら、内々で詫びを入れて解消すべき事だ。

 同じ獣人として、このような非礼を見過ごせば、我ら獣人全てが常識のない野蛮人だと思われてしまう。

 はなはだ迷惑だ!」


 女性にしては長身だが、一七〇センチの女性が、一九〇センチの青虎獣人に堂々と喧嘩を吹きかけたのだ!

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