2話:【回帰に至る剣】
僕は、準備を終えるとグリンへとゴーサインを出した。
「じゃあ、解除するよ!」
「ああ! 絶対に僕から離れないで」
「うん!」
グリンが僕の肩に着地した瞬間に、【
その瞬間に、グレンデルが立っていた位置の床の水が爆ぜた。僕は、見えないながらもその動きを見切ってサイドステップ。
僕の横にある鉄くずが轟音を響かせながら砕けた。
飛び散る破片を腕で庇いながら僕は疾走。グレンデルの加速と距離を計算して、横へと飛ぶ。
「きゃあああ!!」
グリンが悲鳴を上げながら必死に僕にしがみ付いてくると同時に、グレンデルの見えざる攻撃が横を通り過ぎる。
床を前に転がりながら立ち上がって、地面を蹴って跳躍。目の前の鉄くずの上へと登り、地形を確認する。僕が目指す
「どうするの!」
耳元で叫ぶグリンの声を無視して僕は、隣の鉄くずへと飛ぶ。グレンデルは相変わらず透明化しているが、僕を追って鉄くずに登ったせいで、その足音がよく響く。
僕は、元いた鉄くずがグレンデルの重みで凹むのを見ると同時に、予めバックパックから取り出していた
僕が鉄くずの向こう側へと飛び降りると同時に爆音。
「ギュアアア!!」
グレンデルの悲鳴を聞くに、狙い通りにコアは爆発したようだ。投げた程度では爆発しないと思い、コアに軽く傷を付けたのは正解だった。
僕はこの隙を逃さずに床を蹴って、僕がこの空間へと入ってきた崩れた壁へと走る。グレンデルにどれぐらいのダメージが入っているか不明だが、僕は楽観視はしない。
一気に崩れた壁へと行くのを諦めて、僕はその手前にある飛行機の残骸の陰へと滑り込む。
「あとどれぐらいだ?」
「んー2分ぐらい?」
「そうか」
まだ1分しか経っていないか……残り2分が永遠に感じるほどに長い。グレンデルは床に降りて、僕達を探しているのか歩き回っている音が聞こえる。
どうやらグレンデルは僕らを見失ってしまったようだ。これで時間を稼げる。僕は息を止めて気配を潜めるが、グリンの光翼から放たれる光がどうしても目立つ。
心なしか、グレンデルの足音が近付いている気がする。多少時間は稼げたが、崩れた壁へと走りきる余地がなくなる前に動かなければ。グレンデルが万が一先回りしてしまったら、最悪だ。
正直に言えば怖い。凄く怖い。この肌がチリチリとヒリつく感覚も何度経験しても慣れない。
何よりここには僕を助けてくれるショウジもアツシも……ナナもいないのだ。
「残り……1分!」
「行くぞグリン!」
僕はゴブリンのコアを反対方向に投げる。グレンデルの足音がそちらへ向かった同時に飛び出した。
「ギャルア!!」
こちらに気付いたグレンデルが咆吼を上げた。すぐにこちらに向かってくるだろうが、既に崩れた壁までは2mまで僕は近付いていた。
あと少しっ!
「っ!」
マモノに背を向けてはいけない。だが、グレンデルのような見えないマモノはそもそも視覚によって位置を把握できないのだから、その鉄則は無意味だ。
だから最後に僕は背を向けて走ったのだったが――僕は目算を誤っていた。
グレンデルの速さを見切ったつもりだった。
「かはっ!!」
背中への衝撃を受けて、僕は前方に転がるように吹っ飛ぶ。
肺から空気が抜けて、息が出来ない。僕はごろごろと転がって、壁にぶつかって停止。鉄槍だけは絶対に離さないようにする。
「目が回る~」
声を聞くにグリンは無事なようだが、僕はそうとはいかない。頭と背中を強打し、まだ視界が安定しない。だけどグレンデルが迫っているのは音で分かる。
僕は痛む背中を無視して立ち上がると、目の前の崩れた壁を乗り越える。
ここへとまっすぐに走る僕の背中を仮に攻撃されても、
僕は転がるように壁の向こう側に落ちると同時に、崩れた壁と天井の間の景色が歪んでいる事を確認した。そこに、グレンデルはいる。
「グリン! 今だ!」
「っ!!【
グリンから球状の領域が展開される。グレンデルは既に崩れた壁のこっち側に降りてきていて、僕への攻撃の為に腕を振るっていた。
「ようこそキルゾーンへ、このくそったれが」
【
それは二足歩行しているワニ、と表現するのが一番近そうな見た目だった。背びれのように背中に並んでいる機械部分からは、黒い煙が上がっていて、両腕が異様に長く、頭部には角が生えていた。
「グギ&%$&ガ’&%’&ガガガ」
痙攣するように悶えるグレンデルへと僕は焦らずにバックパックの専用ケースから取り出したゴブリンのコアを投げて、その顔の目の前でコアを鉄槍で突きつつ、投げた手で顔を庇う。
爆発が起きてコアの破片と爆風が僕とグレンデルを襲った。グレンデルは崩れた壁の瓦礫が背後にあるせいで後ろには逃げられずまともにそれを顔面に浴びてしまう。
グリンのいた部屋へと繋がるこの場所は一際狭くなっており、グレンデルにはそれを回避する余地がなかった。
僕は怯んで顔が下がったグレンデルの膝を蹴って飛翔。グレンデルの背中の機械部の各所が火花を散らしており、何より、丁度背中の中央部分で真っ赤なコアが
「凄いぞグリン!」
全部グリンの説明通りだった。
【
僕はグレンデルの背中へと着地すると鉄槍を逆手に持って振り上げると一気にその弱点へと振り下ろす。
「グガ&%$ガ&%$ガ!!」
ノイズ混じりの怒号と共に、関節を有らぬ方向に曲げたグレンデルの右腕が、僕の鉄槍をコアへと届く直前で掴んだ。
「しまっ――」
凄まじい力を感じた僕は押し込めずに鉄槍を放した。
グレンデルがそれを投げ捨てて、今度は左腕で僕を攻撃しようと腕を振っていた。まずい、チャンスを逃してしまった。僕にはもう攻撃手段が残されていない。拳で殴ったところでコアは壊れないだろう。
「****を使って!!」
グリンの不明瞭な声と視線を感じて僕は自然と腰に付けていたあの何の役にも立たない筒――【
迫る左腕をかいくぐって、僕は機械部の背中に倒れ込むように【
ガラスが割れる音と共に爆音。
「ギュ%$#%$ルア&%$%&……」
グレンデルのコアの爆発によって僕は再び吹っ飛んだ。水浸しの床へと無様に落ちた僕は、全身の骨が折れたかと錯角するほどの衝撃を受けた。
またあの車庫へと逆戻りだ。だが霞む視界の中で、グレンデルの身体が崩れているのが見えて、僕は安心して気絶したのだった。
☆☆☆
「……起きた?」
「痛つつつ……グレン……デルは?」
「倒せたよ」
「そうか……」
僕はもう痛くないところを挙げた方が早いのではないかと思うほど全身のあちこちが痛かったが、幸い、死んではいないようだ。
僕は何とか起きあがって足を引きずりながら、脱出しようと動く。
「君……凄いね。エーテル武器も無しにグレンデルを倒すなんて」
「二度とごめんだけどな」
「これ、落ちてたよ」
「ん? ああ。壊れてなかったのか」
グリンが両手で抱えていたのは【
「初めて役に立ったよ」
「ねえ……君の名前は?」
「ん? 僕は
「ん、それもだけど、
グリンが僕に【
「ん? これか? おそらく剣型固有武装の初期タイプで無銘なんだが、師匠は【
剣型固有武装は作った時に大体2パターンに分かれるのだ。光刃タイプになる奴は柄だけだし、物理タイプの場合はダガーかショートソードのような形になる。
僕のは当初、光刃タイプだと思っていたけど、いくら振れど使えど光刃は出なかった。
「そっか……あのね。その子に触れた時に、その子の事がね分かったの。これもどうやらグレムリンの力らしいんだけど」
触れた機械についての知識が分かる。それは固有武装も例外ではないらしい。
「それでね、分かったの。その子はずっと眠っていて、覚醒するきっかけを待っていた」
「きっかけ? まさかコアを殴った事か? そんな事はこれまで何度も試したさ。でも無駄だった」
「ん、一人で倒したのは?」
「それは……初めてだけど……」
これまではチームの仲間にマモノを弱らせてもらって、トドメを刺すだけだった。
「つまり……一人で戦ってトドメをこれで刺すのが……その覚醒の条件って事か」
「うん。あたしの力はあくまで足止めだけだから」
「いや十分過ぎるほどの力だったけど」
しかし、覚醒と言われても持った感じ何も変わらない。
「……そっか、アヤトはまだ気付いてないんだね。うん、まあ丁度良い相手が来た」
グリンの言葉と共に水の音がした。僕は慌てて振りかえると、例の水路から透明な何かがこちらへと向かっているのが分かる。
「グレンデルがもう一体だと!?」
まずい、鉄槍はもうない上にゴブリンのコアも残り少ない。
「大丈夫。あいつはそれを使って倒せばいい」
「倒す? こんなただの柄で?」
僕はグレンデルがこちらに向かって来ているのを分かりながらも、そう聞かざるを得なかった。覚醒、したらしいが、相変わらずこいつはウンともスンとも言わないただの柄のまま
「大丈夫、アヤト、信じてその剣の力を」
「剣? こいつが? 刃もない剣なんて信じられるか」
「アヤト、君は肝心な事をしてこなかった」
「肝心な事?」
僕はあらゆる方法を模索し、何とかこの【
結果全て無駄だった。
だけど、グリンはこう僕に言い放ったのだった。
「君は
グレンデルが迫る中、グリンが僕の右肩に座り、語る。
「その剣の名前は決して【
「リグレス……ブレード?」
その言葉と共に僕の中で、何かがパリンと割れる音が響いたように感じた。
そうか……これは【
「【
僕は目の前に迫るグレンデルを無視して、耳元で聞こえるグリンの声のまま発声した。
「――“再現せよ”【
僕の言葉と共に青い光が手元から溢れ、同時に手元の柄が変化していく。それは細く長い剣に変化し、その刃は先端にいくにつれ、捻れて螺旋状になっていた。刃の部分だけでも優に2mは越えるまさに槍のような長剣だ。
そんな大きさなのに、驚くほど軽い。
「アヤト、その剣は突く事に力を見いだした聖剣よ――だから」
「うん、
僕はグリンに言われるまでもなく、なぜかこの手にある剣の事を全て把握していた。
古代イギリスの英雄ベーオウルフが授かったと云われる、聖剣フルンティング。
その語源は古の言葉で【突き刺す】という意味の単語で、なるほど……
「はああああああ!!」
迫るグレンデルへと――僕はフルンティングを突き出した。
「ギャルア&%$アアア!?」
コアの感触どころか刺した感触すらないが、グレンデルはノイズ混じりの悲鳴を上げながら串刺しになった。
次の瞬間にはあっけなくグレンデルの肉体が崩れ、その場にコアだけを残して消失した。
「――“回帰せよ”」
僕の言葉と共に、フルンティングが青い欠片となって散った。手元にあるのはあの先端が赤くなった柄だけだ。
僕は、床に落ちたグレンデルのコアを拾い上げた。コアを狙ったわけでもなく、コアを破壊したわけでもないのにグレンデルは消滅した。これは本来なら有り得ない事だ。
「アヤト、その剣は、実在非実在問わず……この星で生まれ、語り継がれた
僕はグリンの言葉に何も返さず、その柄を見つめた。
なぜ今まではずっと柄のままだったのか。なぜ刃がなかったのか。なぜ僕は、
疑問は尽きない。だけど、僕は思わず涙を流してしまった。
なぜなら、僕はようやく――強くなれるという実感が湧いたからだ。
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