第51話 トリニティー三つの力を一つにー

 ――アヒャヒャヒャ、イノチってキレーだな!


 チュベロスは黒き腕でデュナイドとデュエンドを薙ぎ払わんと振り上げた。

 赤と青の巨人は大振りの一撃を受ける愚行はせず、後方に飛びす去る形で回避する。

 互いの距離が大きく開けた中、口端を大きく開き、息を吸い込んだチュベロスが叫ぶ。

「チュベロ~ス・ミサイル!」

 口奥より円筒状の飛翔体をピラニアの群の如く放ってきた。

 デュナイドとデュエンドは交差した腕より光線を放ちて応射、飛来する飛翔体を一発も残さず爆散させる。

「続けて、目がビーム!」

 チュベロスの丸っこい目に光が集う。太陽に負けず劣らずの輝きを集わせれば顔面よりも巨大な極太光線を放つ。

「直に受けると!」

「島ごとヤベー!」

 回避行動ではなく片膝ついたデュナイドの背後にデュエンドが立つ。

 左右の腕を叩き合わせれば、開いた両腕の間より粒子が走る。粒子は楕円状の形を描き、真っ正面から迫り来る極太ビームを受け止めた。

 辺り一面に着弾の音ではなく着弾の閃光が目映く包む。

「ぶーひゃーひゃー消し飛べ~――ぶべし!」

 閃光に目を焼かれることなく大口開いて笑うチュベロスは口内に自身が放った極太ビームが飛び込むのを許していた。

「ぶげ、ぶほぼげほっ! て、てめえら僕様のビームを跳ね返しやがったな! お陰で一回死んだこと思い出したじゃねえか!」

 舌先を黒く焦がしたチュベロスはせき込みながら赤と青の巨人を睨みつける。

「「ちぃ、生きていやがる」」

 赤と青の巨人は揃って舌打ちする。いつぞやの巨大猫の時よろしく口から体内にビームに叩き込めば倒せると踏んだが残念にも確認できる限り、ダメージは黒く焦げた舌先だけのようだ。

 悪知恵回る狡猾な相手だ。対策を講じているのは当然だろう。

「倍返しじゃゴラっ!」

 チュベロスが全身のモコモコをウニのように逆立てるなり、無数の棘として分離する。棘は鋭利な先端を二人の巨人に向けて飛びかかる。

「くっ、棘一つ一つが独立して動くのか!」

「大気圏内で全方位武器使うなっての!」

 赤と青の巨人は手先より光線の速射を行い、飛び交う棘の群を撃ち落とさんとする。だが、全方位から縦横無尽に飛び交う棘の群を全て撃ち落とすには手が足りず、光線の速射を潜り抜けた棘が赤と青の巨人の死角から迫る。

「しまっ――」

「くっ!」

 接近に気づいた時、棘はすぐ側まで迫っていた。防御回避はおろか迎撃の光線を放つのも間に合わない。

 後ほんの少し、巨人のアーマーに鋭利な棘が突き刺さらんとする瞬間、真横より飛来する粒子の雨が棘を破砕していた。

「ぬあんだ!」

 チュベロスはお口をあんぐりさせ、放たれた粒子の雨の元に顔を向けた。

 そこには両手を突き出した黒き機械の巨人が佇んでいた。

「エネルゲイヤーΔ!」

『申し訳ございません。遅くなりました!』

『援護するぜ!』

『これで終わらせるわよ!』

 白花たちがエネルゲイヤーΔを駆り遅れて参戦する。

 遅れたのはどうやら各々の家族を振り切るのに時間がかかったからだ。

 詳細は省くが子を案じる親の制止を振り切り、秘密格納庫に集えば出撃した。

「か~ぺっ! 今更鉄屑が加わろうとおめーらごときが僕様に勝てるもんか!」

 仕返しと言わんばかり両手を突き出したチュベロスは丸っこい手の平から無数のエネルギー弾を解き放つ。一発一発が大岩サイズであり、当たればただでは済まされない。また下手に避ければ島内部に収納されていない住居部に被弾を許す。

 だから誰もが光線を放ち、敵エネルギー弾の相殺にかかる。

「二度も負けたどの口が言うか!」

「負けてねっての! だって僕様死んでねえからね!」

「なら今度こそ、とっと死ねや!」

「チキューではこう返すんだってな、だが断る!」

 撃ち合いながら言い合い、罵倒しあう。

 海面を高速ホバーで移動するエネルゲイヤーΔがチュベロスの横に回り込み、横っ腹を狙ったミサイルを撃ちだした。横目で気づいてたチュベロスは丸っこい尻を左右に振れば、放った棘を突き刺しミサイルを爆散させる。

「僕様に死角なんてね~んだよ!」

 チュベロスは撃ち方を止めれば巨体を振るわせ、殴りにかかる。巨大な右拳を振り上げればまず最初にデュナイドに振り下ろした。

「はああああっ!」

 デュナイドは迫る拳に萎縮せず、呼吸を整え手の先より光の刀身を展開させる。

 身を屈めるようにして拳を避ければ、立ち上がると同時に光の刀身を右から左に振るう。

「ぴがあああああああっ、僕様の手が!」

 熱したナイフでバターを切るように、チュベロスの右拳が両断され宙を舞う。

「ぬなんちゃって!」

 激痛に叫んだのも束の間、宙を舞う右拳は磁石のように引き寄せられ、チュベロスの腕に何事もなくくっついていた。

「ならよ、こいつはどうだ!」

 デュエンドがチュベロスの懐に飛び込んだ。力強く握った両拳には目映い光が集い、モコモコフカフカの体毛を撃ち抜く勢いで叩き込む。

「ぐぼぎゃ!」

 デュエンドは手に込めた光を解放、巨大な衝撃がチュベロスの胸から背中を貫いた。

「ぶごひゃ~――ぬあ~んてな、効かないってのバーカ!」

「なんだ、と、ぐああああっ!」

 チュベロスはデュエンドを足払いで引き倒せば、丸っこい足裏で胸部を踏みつける。全体重を乗せて潰しにかかってきた。

「みそら!」

 デュエンドを助けんとデュナイドがチュベロスの背後に組み付き、羽交い締めにする。だがモコモコフワフワの体毛に囚われ、上手く掴みきれない。

「下等生物が上級異星人の僕様に触れるなよ、不敬だっての!」

「ぐううっ!」

 デュナイドの横腹にチュベロスが容赦ない肘打ちを連続して叩き込む。一発一発が脳にまで響く攻撃に朱翔は呻き、意識を飛ばしかける。

「てめえらには僕様のコレクションをダメにされた恨みがあるからな、念入りにヌタメタ潰してやる!」

「あんな悪趣味なコレクション潰されて当然だ!」

「ぷじゃけんじゃねえ!」

 チュベロスが怒りを露わに吼える。

「てめえらがぶっ潰した僕様のコレクションはな、全て、くとぅるふSANスターズなんだぞ! ガタノゾーアちゃんも、ハスターくんもニャルラトホテップちゃんも、クトゥグアちゃんとか全て全てな、アイドルを手元に置きたい、愛でたい僕様が直々にアイドルをグッズに改造した宇宙に一つしかない超レアな魂のお宝なんだからな!」

 衝撃の発言に誰もが心身を凍てつかせ、おぞましさを走らせる。

「それってつまり、生きた生命体を剥製みたいにしたってことか!」

「そうだよ! 誰も持っていない永久保存のお宝だ! それがもう二度と手に入らねえ!」

「どこまで命を弄べば、冒涜すれば気が済むんだ!」

「けっ、何が命を弄ぶな、だよ! 正義ぶるんぶるんすんじゃねえ! 僕様にはあるんだよ! この宇宙でただ一人、全ての命を弄ぶ権利がな! まあおめえら下等生物に教えてやる義理はねえ!」

「ぐああああっ!」

 チュベロスの足裏の圧力が増し、デュエンドが悲鳴を上げ背面に触れる沿岸部プレートに亀裂が走る。

 デュナイドは引き剥がそうとするもモコモコフサフサの体毛に邪魔され、引き剥がせずにいた。

「こいつ!」

 それはただの偶然だった。

 デュナイドが今一度背面の体毛を掴んだ際、張り付いたガムテープが剥がれるように、チュベロスの背面の毛皮がベロリと剥がれ落ちる。

 首元から臀部まで一気に剥がれた毛皮に誰の目も点となり時が凍結したような静寂に包まれる。

「ぬぎあああああああっ! 僕様のラブリープリチーな毛皮が!」

 静寂はチュベロスの絶叫で破られた。

「なんか知らんが!」

 デュナイドはエネルギーを手の平に束ね、剥き出しの背中に叩き込む。

「ふぎぁああああああああっ!」

 今まで聞いたことのないチュベロスの絶叫が天沼島に響く。

「おら、おら、おらっ!」

 だからデュナイドは掌に束ねた光をチュベロスの背中に叩きつけるのを止めない。

 打ち込まれる度、チュベロスの絶叫は響き、剥き出しの背中に亀裂が走る。

「三人とも!」

 踏み躙られたままのデュエンドがエネルゲイヤーΔに指示を送る。

 エネルゲイヤーΔは即座に動き、機体よりリフレクターを射出、空に展開させた。

「ぐうう、あまなんとか砲なんて使わせね~あら?」

 動きを止めねば撃てぬなどチュベロスは解析済み。棒立ちとなったエネルゲイヤーΔに目からビームを放つもスラスタ推進により滑るように避けられた。

「はぁ? ならなんであんなの展開したん、あ?」

 疑問抱くチュベロスは足下に集う光に解答を得た。

「こういうことだよ!」

 踏みつけたままのデュエンドが腕を交差させエネルギーを溜めに溜めている。すぐ背後ではデュナイドもまた腕にエネルギーを溜めていた。

「これで終わりだ、チュベロス!」

「フロンティアⅦからの因縁、ここで断ち切る!」

 最初に放たれるのは青き光線。チュベロスは首を傾げる形で咄嗟に避けるも無駄だと痛感する。

 あの機械人形から分離したのは光を反射させるリフレクター。

 ならば光の一種である光子エネルギーも反射できぬ道理はない。

「ふぎゃあああああ、焼ける、融ける、焦げる!」

 リフレクターに反射された青き光がチュベロスの背面を照射する。続けて放たれるは赤き光線。赤と青の光線は二つに合わさり、輝度と威力を増幅させる。

 さらに空から目映い光の柱が降臨、エネルゲイヤーΔに降り注ぐ。

 太陽光集積衛星アマテラスからの太陽光照射だった。

「ちょ、待て、待て、待て、この状態で、三つも受けると!」

 顔面蒼白のチュベロスは腕をジタバタさせ止めに入ろうと誰も止めるはずがない。

 ただこの瞬間に仕留めるのみ。

「即興命名! トリニティ・サンシャイン・ノヴァだ!」

「ぴっぎゃあああああああああっ!」

 みそらが即興で名付けた三方向から放たれる光線を受けたチュベロスの全身は粒子状に強制分解されていく。

「みそら、離れろ!」

「おうよ!」

 踏みつけが緩んだのを見逃さず、デュエンドはチュベロスの拘束から脱出する。

「て、てめえら、か、下等生物の分際で、よくもよくも!」

 チュベロスの肉体は首から下が消失していた。

 ただ唯一動かせる口から恨み節を放っている。

「けどね、僕様だけでは終わらないもんね!」

 口奥からガリゴリバリと硬いものを噛み砕く音がする。

 舌先に乗せて見せつけるのは見覚えある小箱であった。


「僕様一人で滅んでたまるか、てめえら全員島ごと消し飛ばしてやる!」


 ――地球爆破まで残り――ERROORROORRR

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