第42話 先見の社長
――あっちが武力で宇宙を守るなら、僕様たちは医療で宇宙を守るよ!
デルタ計画。
来るべき脅威に対するため柊朱翔ら四名をエネルゲイヤーΔの操縦者とする。
記憶喪失であろうと、脅威となんらかの関わりがあると読んだ黒樫は眠れる記憶から対抗策が生まれると予測した。
確かに黒樫の見通し通り、脅威は怪獣たる形で現れた。
「同時に嬉しい誤算もあった。そう赤き巨人となった君だよ」
黒樫の語る誤算に、朱翔は表情を崩すことなく穏やかに言う。
「デュナイドのことか」
「その通り、まさか君が赤き巨人に変身するとは、流石の私も予測できなかったよ」
黒樫のとんでも発言に表情を凍てつかせるのは、たんぽぽを筆頭とした蒼太や白花である。
「正体バレてるし……」
「そりゃ再変身するツール作ったロボットの持ち主だぜ? ログとかで自ずとバレるっての」
「ですけど、お味方してくださる方で助かりました」
ただ表情を凍てつかせたのも一瞬だけ。
今までの協力を思い出し胸を揃って撫でおろしていた。
「怪獣による被害も算出していたのだが、建造物どころか人命まで救ってしまうのは嬉しい誤算だよ」
「デュナイドのお陰さ」
朱翔は震える唇で黒樫に返す。
白花を失っていたかもしれぬ恐怖は今なお消えず、しこりとして残っている。
全てを救いたい願望を抱いたのも、フロンティアⅦクルー全員を救えなかった悔恨から生まれたものだ。
そして今、島の人々を救うため、怪獣に改造されたフロンティアⅦクルーを倒さねばならぬ現実があった。
「赤き巨人の登場により計画は四人から三人に下方修正。結果は君たちの知って通りだ」
搭乗式ではなく遠隔操作方式を採用した理由は操縦士の人命保護の意味合いが強いと黒樫は語る。
「ちょっと質問だけどよ」
ここで蒼太が挙手すれば黒樫は質問を待っていたと言わんばかりの笑みを口端に走らせる。質問すら想定内とは先行きを見通す力に恐れ入る。
「前々から俺様たちに目をつけていたってことはまさか、シェルターで出会ったのも計算だったのか?」
疑心と不快を誰もが抱く。
四六時中見張られているようで後味が悪い。
「いや、あの時は本当に本当の偶然の出会いだよ。予測した通りであるならばあの後、秘書に捕縛されておらんよ。お陰で酷い目にあった」
黒樫の発言には疑心を紐解く説得力があった。
先見の明に長けた人物であるならば、己の危機回避にも遺憾なく発揮されるはずだ。
結末は秘書にロープで捕縛され、抵抗虚しく連行された。
後に社長ブログは秘書の手で更新。
椅子に縛られ仕事する社長の姿がSNSにアップされている。
首には<ランチは社内で済まします>の看板つきときた。
千の軽い言葉より一つの重き事実だと言ったものである。
「この世全てが見抜けるとは限らないのだよ、私も、君たちも、敵も、ね」
黒樫はタブレットを弾く。
表示されるのはデュナイドへの再変身を可能としたデュネクスギア。
そしてもう一人の巨人デュエンドと死んだはずの双子の妹、みそらの存在であった。
「ギアの方は脅威の対抗策としてエネルゲイヤーΔが形成した、なら分かる。分かるが、君の妹くんと青き巨人デュエンドの存在は完全にイレギュラーだよ」
「生きているとは思わなかった」
うっすらであろうと確かにみそらはブラックホールに飲み込まれた。
いくら内に青の、デュエンドの力を宿していようと根は生身の人間である。
こればかりは憶測立てる唱えるは無駄、手っ取り早く当人に確認するしかない。
口を割るかは別問題であるが。
「敵対するどころか君たちを助けたのが幸運だろう」
「ですけど」
白花は顔をうつむかせながら口を開く。
「確かにみそらさんでした。たんぽぽさんと蒼太さんを二乗したような性格で手とナンパは素早く、双子なのをいいことによく朱翔さんに自分の不始末を押しつけるような人です。ですけど、あの人は笑いながら人を殴るような粗暴な人ではないはずです」
「あれ本当にみそらなのか?」
「朱翔と違って、中に寄生した宇宙人の人格が表に出ているんじゃないの?」
「ともあれだ。デルタ計画は発動した。赤き巨人デュナイドとあわせて対抗策はお釣りが来るほどの効果を発揮している」
黒樫は再びタブレットを操作、連動するように背後のエレベーターの駆動音が閉鎖空間に反響する。
「そして、諸君らの手元にはくだらぬゲームを終わらせる切り札がある」
天沼島を包むバリア発生源である四本柱を破壊する装置。
同時に、押せばバリアを解除できる小箱も手元にある。
「けど、島中央は立ち入り禁止の危険地域だ。行くにしても僕が変身するか、エネルゲイヤーΔで運ぶかのどっちかだ」
「確かに、そのほうが堅実だろうと非効率だ。変身者及び操縦者が島内にいると確信させることになる。そうなるとイの一番に疑われるのは、一度宇宙に赴き、帰還した君になるのだよ、柊朱翔くん」
「どっちにしろ嫌疑は避けられないと思うよ」
嘆息混じりに朱翔は返す。
みそらの存在だ。いくらフロンティア計画が抹消されたとはいえ、抹消を指示した者たちの記憶は健在である。
今回のゲームにおいて、みそらは暴徒を殴る蹴るはの騒動を起こし、その姿をネットワークに拡散させている。
宇宙の脅威の情報を求めんと政府関係者が接触してくるはずだ。
「加えて君のARグラスには色々と細工がされているようだしな」
「細工?」
今愛用するARグラスは記憶喪失後、両親に与えられた物だ。
以前の物は落雷で損壊したと聞かされているが、落雷自体が偽りであった。
「連中は君に記憶を取り戻して欲しくないのさ。もし戻ろうならば抹消したフロンティア計画の生き証人となるからね。かといって下手に処分したくともここは日本だ。思惑云々で簡単に人命を処分などできやしない。調べると当時、日本政府が各方面に強い根回しを行い、君を故郷に戻す算段をつけたそうだ。本土より離れた島だったのも背中を押したとある」
別の国であったのならば口封じされていたなど恐ろしい。
「けど、僕はあんたとそのデータのお陰で記憶を取り戻した」
「君が選んだ結果だ。私はただ真実を求める君の手助けをしたにすぎない」
黒樫持つタブレットが朱翔のARグラスとの接続を求めてきた。
悪意はないと判断した朱翔は接続許可を出す。
「君のARグラスは外装こそ一メーカーの品だが、中にはマルチウェアが仕込まれた特別品だ。宇宙に関するワードは排除するよう設定された代物だね」
「三人とも知ってた?」
「今知った!」
「同じく!」
「右に同じ!」
三人に真偽を聞けば、揃って首を縦に振る。
両親は知っていたのか、いや知らぬ可能性が高いと読む。
砂粒一つの情報でも記憶を再起させる呼び水となる。
故に特定のワードを排除することで再起を防ぐ。
「まあ、プライバシーは配慮しているみたいだ。あくまでワードを排除するだけで覗き見、盗み聞きの類はない」
ならば、デュナイドとのチャットログは第三者に閲覧されていないことになる。
「それで、だ。私なら解除できるが?」
「解除すると異常が送信されそうだな」
「な~に、正常に作動していると見せかけることなど、私には容易いものよ」
白き歯を剥き出しに口端歪めて笑う黒樫の顔はまさにドヤ顔である。
その顔は、企みに企み、練りに練ったいたずらを今まさに実行せんとする悪ガキの顔そのものだ。
「それどころかあちらさんを欺けるシステムを組み込めるぞ?」
申し出を断る理由はないが、どこか改変すべきではないと囁いてくる。
「いや、盗聴盗撮がないと分かっただけでも大助かりだ。むしろ、一企業の社長が僕たちと接触してるほうが問題じゃないのか?」
「な~に、フロンティア計画について調べるついでに、様々な甘い苦い情報を入手している。公表されると色々不味くなるものばかり。故にどの国が噛みつこうと逆に噛み砕かれるだけさ」
抜け目のなさに驚嘆するしかない。
同時、この社長が味方で助かったと安堵さえした。
日頃からエキセントリックな言動が目立つも、根は子供心を忘れぬ善人のようだ。
そうでなければ子供が楽しめるゲームを作れるはずがない。
「さて、本題を入ろうか」
新たなエレベーターの扉が開くと同時、黒樫は切り出した。
「君たちは島を囲むバリアを解きたい。だが、敵の解除ボタンを下手に押せない。新たな装置なら可能だが危険な島中央に赴かねばならない。ここで一つ質問をしよう」
タブレットに表示されるのは朱翔たちが持つトランクである。
このトランクにはバリアを解除どころか発生源である四本柱を自壊させるまでの効果がある。
ただし島中央で起動しなければならぬ技術的制約があった。
「その装置は中央で起動しなければならない。ではどの中央なのかね?」
黒樫の不可解な質問に、朱翔たちは疑問符を表情に浮かべるしかない。
ただしばしの間を得て、今いる位置が解答の呼び水となる。
「そうか、電子説明書でも島の中央が必須であって、地上とか地下とか高さは指定されていない!」
「そ、そうです。何よりここは天沼島の地下!」
「加えて目の前にいる社長は、天沼島開発事業のどさくさに紛れてあれこれ仕込んだ主犯よ!」
「流石、社長、抱いてくれ!」
「はっはっは、そう誉めてくれるな、後ヤローと未成年はお断りさせてもらうよ」
誉められて嬉しいのか黒樫は顔を綻ばせている。
「では案内しよう。島中央地下に」
とっておきの秘密のルートで案内しよう。
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