第38話 異星人の部屋

 ――ガタノゾーアちゃ~ん!


 周囲には巨大猫であったものが四散している。

 どれもこれも炭化し物言わぬ肉片と化している。

 口から体内にエネルギーを注ぎに注がれたことでオーバーフローによる爆発を起こし倒すことができた。

 こみ上げるのは命を奪った罪悪感と吐き気ではない。

 疲労と達成、そして生存の歓喜である。

「はぁはぁはぁ……みそら、無事?」

「兄貴が無事なら無事だっての」

 双方、肩で激しく息をしながらも生き残り、勝ち残ることができた。

「さてと……」

「もう一仕事するか」

 憑依する赤と青が消耗激しく休むべきだと内から告げてくる。

 確かに休める時に休むべきだろう。

 だが、今は呑気に休める状況ではない。

「巨大猫が一匹だけと限らない。仮に一匹だけだとしてもカプセル内の怪獣が暴れ出したら危険だ」

「特撮とかだと主失って暴走するパターン多いからな」

 最優先すべきはフロンティアⅦクルーの救出。

 重石のように疲労が絡みついた身体を引きずり、朱翔とみそらは生存者救出を開始する。

 ここで壁となるのが異星技術故の壁であった。

「あ~くそ、これどうしたら開くんだ?」

 クルーを閉じ込める透明カプセルの横にコンソールらしき箇所を発見するも、操作方法が分からない。

 破壊するのが手っ取り早いが生命が関わっているならば悪手。

 ここで赤と青が助言を与えてきた。

「へ~ここをこうして、これをそうして……」

 言われるがままコンソールを操作する。

 操作手順はタッチパネルに近く、途中で解放には認証パスが必要とするも赤と青の助力により難なく突破する。

「……助けられたのは六人だけか」

 カプセルからクルーを解放しようと朱翔の表情は苦い。

 九四名のクルーは液状化により死亡。

 助けられたのは候補生時代から苦楽を共にしてきた一〇代クルーだった。

 誰も彼も五体満足で無事であろうと、眠ったように意識を取り戻さない。

「六人も救えたと思っとけよ」

 ネガティブではなくポジティブに考えろ、行動しろ。

 次に行うべきはクルーの移送。

 ツナギの服どころか船外作業服すら纏わぬすっぽんぽん状態で船外の移動は危険だ。

「幸いにもこの船はでかい。フロンティアⅦから脱出艇を運び込めばいけるはずだ」

「いや、朱翔、ちょうどいいのがあるぜ」

 コンソールをあれこれいじっていたみそらは不敵な笑みを浮かべている。

 表示されているのはどうやら船内図のようであり、格納庫らしき区画を指さした。

「ほう、なんか色々とあるっぽいな」

 不敵な笑みを浮かべるみそらが何を企んでいるか、双子の兄として朱翔は勘づいていた。

 何かしらの悪だくみ――それもかなり悪質なものを思い浮かんだ顔だ。

 幼き頃は異性とはいえ一卵性双子。男女の違いが現れていない年頃故に、見分けられる者など数少なかった。

 お陰で悪戯の首謀者として朱翔は何度、間違えられたことか。何度、みそらに罪を押し付けられたことか。何度、白花・たんぽぽ・蒼太が罪をみそらに押し返したか、数え切れない。

「お、きたきた!」

 歓喜の口笛をみそらが吹かす。

 一見してカートのように見える畳二〇畳ほどの板切れが床を滑るように現れ、朱翔たちの前で停止する。

「移動用のカートみたいなもんか? あれ、タイヤがない。浮いている? どういう仕組みだ? それに、でかいな」

「そりゃ巨大猫が使ってたんだ。でかいだろうよ」

 浮遊する仕組みは不明だが、合理的だと朱翔は思った。

 巨大猫は充分でかいが、敵船も全長五〇キロメートルとかなりでかい。

 ならば移動を円滑にする手段が供えられていてもおかしくはないだろう。

「これを、こうして」

 朱翔がクルーたちをカートに運び込んでいる間、みそらはあれこれカートの端末をいじっている。

 赤の力もあってかカートに乗せるのは難なく終わった。

「星は違ってもあるべきところにつけると考えるのは同じか」

「何かわかったの?」

 端末いじるみそらに朱翔は顔を覗き込む。

「船底部に脱出艇がある。それに乗ってまずは船外に出ようぜ」

「いや、その前にフロンティアⅦを航行可能にする必要がある」

 敵船からの脱出に成功しようと、宙域からの離脱が求められる。

 今、フロンティアⅦは敵巨大船のムカデのような足に拘束され、航行不能となっている。

 脱出艇はあくまで非常時の脱出に使用する物。

 脱出できたとしても現在地は木星。

 惑星間航行能力のない脱出艇で地球帰還は不可能だ。

「オーライ、リーダーの意見に従おう。サポートAIのお陰でフロンティアⅦは自動航行ができるからな。それでこのでけえ船はどうする?」

「この船は……」

 どうするべきか、喉奥から言葉がでない。

 欲をかいたわけではないが、この巨大船を地球に持ち帰ることができればフロンティア計画の更なる促進になるのではないか。

 一方で、生物を怪獣に改造する装置や害意を抱く存在を持ち帰ることにもなる。

 結果、地球圏で起こるのが混乱と興奮であり、その次は巨大船の所有権を各国が訴えることだ。

 一応は国連主導のフロンティア計画とはいえ、国連故に常任理事国の意向が濃く出てしまう。

 宇宙飛行士となって夢には現実と大人のいじましさ、国家の権威が入り込んでくるのを嫌でも思い知った。

「……爆破するべきだ」

 管理・制御できぬ故、騒乱の火種となる。

 今は生存し地球に帰還する。帰還し、宇宙には善と悪の知的生命体が存在するのを報告することでもお釣りが来るはずだ。

「エンジンをオーバーフローさせればできるはずだ」

「流石、兄妹、考えることは同じだね」

 不敵な笑みをなお崩さぬみそらはコンソールを操作する。

「便利で面白いシステム見つけたぜ、ほれっ!」

 一瞬で周囲の景色が変わる。

 先ほどまで広大で巨大なカプセルが並ぶ空間であったはずが、今いるのは巨大な部屋であった。

「なんだよ、これ!」

「どうやらこの板切れ、テレポート装置を兼ねているみたいなんだ。空間を移動するなんてスゲー技術……あれ、おかしいな、船底にある格納庫に飛ぶよう設定したんだが?」

 ヘルメットをかきながらコンソールを再チェックするみそらを横に、朱翔は改めて巨大な部屋を見渡した。

 壁にはタコのようなイカのような軟体生物のポスターが隙間なく張られ、巨大な棚には触手の集合体のようなフィギュアが透明ケースに内包される形で沢山飾られている。ベッドらしきものにはアンモナイトが反転したものが描かれたシーツが敷かれていた。

 抜け毛らしきものがシーツにこびりついていることから巨大猫の私室のようだ。

 次いで、朱翔は地球で似たような部屋を見た既視感にも囚われる。

「なんかどれもこれもクトゥルフ神話に出て来そうなものばかりだな……」

 直視し続ければ精神がごっそり削られそうだ。

 クトゥルフ神話はラブクラフトと友人たちが作り上げた架空の神話である。

 カテゴリーはホラーであり、後世に影響を与えた作品は数多い。

 朱翔が知っているのはサブカルチャーから知識の断片を得たからだ。

「あ~指定座標がズレていたわけか。それでこの部屋に……ってなんだよ、この部屋、まるでドルオタ部屋だな」

「ああ、ドルオタか、そういえばそれっぽいな」

 みそらの発言で朱翔の既視感は解となる。

 ドルオタ――アイドルオタク。アイドルが大好きで大好きでたまらないオタクである。

「じゃなに、宇宙じゃ、クトゥルフ神話に出てくる奴がアイドルなわけ?」

「確かにクトゥルフ神話に出てきそうだが、って、あれ創作だろう? まさか本当に実在するのか?」

「宇宙人が実在したんだ。クトゥルフ神話が実在する神々を書いた作品だって可能性は高い、よね……」

 朱翔は背筋走る寒気と共に語尾を窄めてしまう。

 試しに赤と青に尋ねるも、宇宙は広く、全ての生命を把握できないとの返答である。

 異色な部屋の中で双子の兄妹は顔を見合わせて考え込む。

 脱出は最優先だが、この部屋で行うべきことがあると頷きあう。

「「ぶっ壊す!」」

 憂さ晴らしと報復を兼ねて。

 赤と青の光線がドルオタ部屋に乱舞した。

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