第39話 地球へ

 ――彼のARグラスには宇宙に関するワードをカットするプログラムを仕込ませてもらいました。ご理解を。


 消える、消えていく。

 ただ見ているだけしか、眺めているだけしかできなかった。

 もう二度と手に入らぬ珠玉のコレクションの山々が呆気なく粒子分解されていく。

 もう二度と、抱きしめ匂いを堪能することも、歌を聴くことも、ほっぺすりすり、舌レロレロもできやしない。

 あいつらは悪魔だ! 下等生物の皮を被った悪魔だ!

 どうして、そこまで悪逆非道なことができる!

 泣き叫ぼうと、懇願しようと、声は届かない。


 ぎゅあああああ、僕様のコレクションを破壊するな!


 ドルオタ部屋を破壊し尽くした後、朱翔は敵巨大船底部にとりつき、船外作業に勤しんでいた。

 手先より光子をバーナーのように放出すれば、フロンティアⅦの航行を妨げるムカデのような拘束部位の右側を切断していた。

 未知の物資故に切断できるか不安であったが、赤の力のお陰で豆腐を切るような感覚である。

「みそら、そっち側はどう?」

『おう、順調、順調、後少しで終わるぜ』

 左側で切断作業を行うみそらに進捗を問えば問題ない様だ。

「敵船のシステムに強固なロックがかかった時はどうなるかと思ったけど、どうにかなったな」

『おうよ、恐らく船のコントロールを奪わせない自衛システムが組み込まれているんだろうよ。そのまま自爆されないだけマシだわ』

 口を動かしながらも作業の手は緩めない。

 順調にいけば木星圏から離脱していたはずであったが、フロンティアⅦを拘束する部位の解除がシステムロックにより行えなくなった。

 赤と青でも解除は無理との故に、朱翔とみそらは船外にて解除作業に勤しむこととなる。

「まだ目覚めないな」

 拘束部位が残り二ヶ所となった時、朱翔は心配を零す。

『そのうち目覚めるだろう』

 救出したクルー六人は医務室のベッドから起き上がる気配はない。

 みそらは楽観的だが、朱翔は言い知れぬ不安を抱いていた。

 怪獣に改造するカプセルに閉じ込められていたのだ。

 メディカルチェックは健康との結果があろうと、未知の宇宙技術が不安を煽る。

「よし、これで終わり」

『おう、こっちも終わったぞ!』

 朱翔が切断を終えたと同時、みそらもまた終える。

 フロンティアⅦは拘束を解除されたことで、木星が発する高重力に引き寄せられ始める。

 このままではガスの海に沈む。

 惑星間航行の速度は自動車の速度と比較にならぬため、置き去りにされぬよう朱翔とみそらは外部ハッチから船内に素早く移動する。

 気圧調整室にて、すぐさま朱翔は遠隔操作にて船の姿勢制御と発進の指示をAIに送信した。

『それじゃ、地球まで頼むぜ、朱翔船長代理』

 酸素が充填される中、みそらが白歯剥き出しに笑う。

 キャンプ以下、九四名が死亡した今、少年チームのリーダーであった朱翔が船長代理として就任した。

 船舶免許など持たぬ身だが緊急処置だ。

 加えて操舵から管制まで全て一人でこなすのではない。

 そのための補助AIである。

「サポートよろしく、みそら副船長代理」

 充填された空気を堪能する朱翔は、船長権限としてみそらを副船長代理に任命した。

「うげ~」

 みそらが面倒でうんざりとの表情を浮かべるなど朱翔にとって許容範囲だ。


「みんなの様子を見てくるよ」

「あいよ、いってら~」

 みそらは医務室に向かう朱翔を見送れば、その足で操舵室に向かう。

 正確には併設された通信室であった。

 

「通信は通じねえな」

 みそらはコンソールを操作しながら悪態つく。

 いち早く地球の管制室に緊急事態を報告したくとも通信が通じない。

 ヘッドセットのスピーカーからはノイズどころか、うんやすんの音もなしときたから困ったもの。

 敵巨大船が通信を妨害していると考えるのが妥当だろう。

「ともあれ、船体及び航行に異常なし。このまま行けば半年後に到着だ」

 ARグラスで艦内の備蓄をみそらはチェックする。

 かつては一〇〇名のクルーが現在では八名。

 よって水も酸素も、食料も八名であるならば半年間充分に賄うことができる。

 万が一の事態に陥れば、代謝を落とし肉体を保存する冷凍睡眠装置を使用するだけ。もちろんこれは最後の手段。

 一度中に入れば設定された起床時間まで目覚めぬため、船に異常が起こった際の対処が行えない。

 そう下手をすれば冷凍睡眠が永眠に変わるリスクがあった。

「そういや、お前、これからどうする?」

 みそらは宿る青に今後を問いかける。

 悪魔は討った。母星の仇討ちは達成した。

 赤と青の力がなければ朱翔とみそらは今頃、巨大猫の手で怪獣に改造されていただろう。

「そうか、考えていなかったか……ん~む」

 みそらは腕を組み考え込む。

 そのまま無意識のうちに椅子の上で胡坐をかいていた。

 母親から、はしたないと注意を受けているが治す気はない。

 治してしまえば、胡坐の上に美女でも美少女でも美少年でも、コテンと頭を乗せてこなくなるではないか。

「そうだ、まず名前だよな、名前」

 みそらはポンと手の平を打つ。

 意思疎通は行えようと、名前や母星が文字化けを起こしている。

 内に宿る状態で尋ねようにも認識されない。

 赤や青と色で識別していたのはあくまで緊急処置。

 余裕が生まれた現在、二人の固有名を付けるのも悪くはないだろう。

「とりあえず、今後については二の次にしてお前たちの名前を考えないとな」

 地球に到着するまでおよそ半年。

 考える時間はたっぷりある。

 朱翔と相談しながら考えよう。

「あ~でもとりあえず地球には隠しておくか」

 今後を踏まえて沈黙は銀をみそらは選ぶ。

 善良であろうと悪逆であろうと、地球からすれば地球外の生命体だ。

 世紀の大発見と歓喜したくとも、九八名のクルーの命を奪った存在にいい顔をしないはずだ。

 その悪逆を討った善良の宇宙人とて同じ。

 地球の脅威になるか、ならぬか疑心暗鬼に陥るのが明らか。

 下手すれば、協力し合った朱翔とみそらが観察対象として拘束される。

 拘束され様ならば美少女のナンパができなくなる。

「お?」

 ヘッドセットのスピーカーからノイズ混じりの音声が流れだす。

 地球の管制室と通信が回復したのか、みそらはヘッドセットのマイクを掴んでは呼びかけた。

「管制室、応答せよ、管制室、こちらフロンティアⅦ、副船長代理柊みそらである。繰り返す――」


『はい、こちら、チキューのカンセーシツですよー』


 繋がった通信に、みそらは顔をしかめるなり違和感と嫌悪感を走らせた。

 腑抜けた応答、いや腑抜けの底におふざけと悪だくみが潜んでいるのを見抜く。

「まさか、お前!」

 みそらが言葉を走らせた瞬間、一際巨大な衝撃が船内を貫いた。

 アラートが鳴り響く。

 船体上部に全長五〇キロメートルの巨大物体ありとセンサーが報告する。


「ぷぎゃああああああ、てめえら好き放題暴れやがって、計画台無しじゃねえか!」


 モニターにノイズと影が走る。

 影は犬の形となり犬歯剥き出しに吼えた。


「タダで帰れると思うなよ、てめえらは改造なんてしねえ、僕様の手でギッタンヌッタンにヌッコロシてやんよ!」

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