<2:思考>

彼女の顔が気になりながらも、握られた手の中にある小さく畳まれた紙に視線を落とす。

何とも強引な手紙の渡し方だ。封筒に入れられた手紙を、頭を下げながら差し出し、手紙の交換が行われるというのが王道と考える古典的な俺は逆に興味が誘われた。


見かけは小さく安っぽい無地の紙だった。多分ルーズリーフの端っこ。女子だから、可愛らしい紙なのだろうと思ったが、またこの紙は俺を裏切った。好奇心が大いに刺激された所で早速、紙を開いてみることにした。期待に胸躍らせて、開いていく。


開ききると小さい手紙になった。そこには丁寧でありながら、女の子らしくも、事務的な文字が三行に渡って書かれていた。


一行目には『一年四組 上原さくら』と名前が。


二行目には電話番号。


三行目にようやく文章が書かれていたが要件が端的に示されていただけだった。


『今晩、連絡くれませんか』


俺は失礼とは分かっていたが地面に手紙を投げつけた。ある種の無言ツッコミとでも言い表そうか。心の内を叫ぶなら『最初から最後まで事務的すぎて名刺かと思ったわ! 』だろう。


しかし、俺は地面のそれを見て、はたと気が付いた。この手紙を書いた彼女は出来る子だなと。


今の時代、手紙で告白なんて旧式だと思われている。それは手紙が物体として残ってしまう為、秘匿性に欠けるからだ。自分のありのままの感情という恥ずかしいものを相手以外の周りに見られる可能性のある手紙にしたためたくないと感じるのは分からなくはない。だが、秘匿性の高いメールやLINEを利用するにもそれを相手から教えてもらわなければならない。結局、口頭で教えてもらうか手紙を用いるしかない。


その点、この手紙は素晴らしい。一見すると名刺にしか見えない様にすることで、他者に見られても大丈夫になっているのだ。


俺はドキドキした。こんなにも手紙一つで好奇心をくすぐられるとは思っていなかった。そして自分と同等の慎重さを俺は手紙の奥の彼女に感じた。


渡してきた子の顔をしっかりと見なかったのが惜しい。いや、逆にこんな現象さえも面白いと好奇心が高鳴った。


俺はスキップしながら、寒空を忘れて帰路についた。

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