<承:八重桜の香りは盲目の誘い>

<1:現実とメール>

その晩、手紙の指示通りに『上原さん』にコンタクトを取る事にした。自室の椅子に座り、机に肘をつき、両手でスマホを持つ。そしてショートメールのアプリを使い文章を送った。


「三年一組の生田利世だけど何か用? 」


我ながらぶっきらぼうな気がするが、事務的な手紙には事務的な文章で返すのが礼儀だと思った。それにまだ渡した相手が本当に俺で合っているのか確認する必要があった。まあ、そんな間違いをするとは思えないが……。すると、しばらく経って返信が返ってきた。


「実は先輩の事が前から好きでした! 良ければ、付き合ってください! 」


どうやら渡す相手は俺で合っていた。しかし、気になる事がある。この文には慎重さがない。あまりに直球過ぎる。手紙を書いた人物と同一の人物が書いたものには思えなかった。そんな疑問があっても、もし、俺が手紙をくれた子の顔をしっかりと確認していれば、是か非かすぐに決められただろう。しかし、俺は決めかねた。


先に断っておきたい。俺は決して面食いという種の人間では無い。


しかし顔もろくに見ていないざっくりとした印象の人物と恋人となるというのはどこか可笑しい。それもメールという媒体を介してだ。

知的好奇心が旺盛な俺でもそれが危険な賭けである事は分かる。だから、俺は頭を抱えながら提案をした。


「気持ちは嬉しい。だけど、俺はまだ上原さんの事をよく知らない。だから、明日の放課後、一緒に帰らない? 」


君の顔を知らないなんて言ったら、彼女が傷つくと思った。この文言なら、傷つける事なく、俺は顔を確認できるし、彼女を知る事が出来る場を自然に作り出せる。


我ながら良策だ。


しかし、送った数分後に気が付いた。この文言、半ばOKと言っているようなものではないか。なぜなら自分から下校を共にしたいほど、彼女に興味があるように感じ取られても可笑しくないからだ。事実興味が無い訳では無いが……。不覚にも俺は心が躍ってしまった。慎重さがまるでなかった。削除をしようとしたが彼女の返信の方が早かった。


「それじゃあ、校門前で待ってます」


時すでに遅しかと頭を抱えた。仕方が無いので時間を設定する事にした。時間を伝え、了承を得て、メールを終えた。


この時点で俺たちは盲目になっていた。恋と言う魔力によって。

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