第3話 一寸先

父親が病気になろうがなるまいが、私は変わらず有楽町にいた。段々と暗くなる有楽町の街で私は働き続けていた。よくわからなかったコーヒーの味が分かるようにすらなってきていた。なぜ客がこのカフェを選ぶのかも、段々とわかってきていた。そのぐらい私は有楽町のこのカフェに根を張ろうとしていた。


 イトシアの広場には朝通ったときと同じ浮浪者が同じポーズで座っている。その真向かいには女子高生がスマホを片手に友だちとおしゃべりをしていて、その横では友人と待ち合わせでもするのであろう派手な格好の女の人が静かに座っている。毎日毎日ここで色んな人がすれ違うのに、知らない人同士では必ず無関心を貫く。当たり前のことなのに、その無関心さから目を背けたくなるのは私だけじゃないと思う。誰もが一寸先の闇をみないようにしているように思うのだ。



 電車に乗り込んで、家にいるのであろう父親を思う。父だって、こんな風になるとは思っていなかっただろう。そういう人たちがいる、そういう風に苦しむことがあると言うことは知っていても、まさか自分に降りかかってくるとは思わない。いつのまにか父親の頭に定着したニット帽の不健康な色を思って、なんとなくため息をついた。窓に映った自分もなぜか、不健康にみえた。


 私の住む街に着いた頃には、混み合っていた車内からはほとんどの人がいなくなっていた。無意識のうちにあいた席に座っていた自分に気づき、慌てて立ち上がった。ぎりぎりでドアをすり抜けて駅のホームにたって、斜め前。パチンコ屋のネオンが目に悪かった。

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