かがみの、とびら

それからしばらく経ったある夜。


今日は満月のようで、いつもより明るい夜だった。


僕は古い本棚を整理しながら、

おばあちゃんが残した本や書き物を読み返していた。

何か変わったことは書かれていないかと

本の隅々まで読み込み、ゆっくりとページをめくる。


あの日。

扉が見えたあの瞬間、夢を見ただけかもしれない。

でも僕は昔、おばあちゃんから言われた言葉をしっかりと覚えている。

暖かいろうそくの灯りに包まれたこの部屋で。


僕はページをめくるのを止めて鏡を見た。

何か思い出さないかと頭を抱えて目を瞑る。


ふっと風が吹いた。


おばあちゃんが亡くなってからは誰もこの小屋に近寄らず

僕も遊びに来ることはなくなった。


元々人見知りの僕は会社に勤めても長続きせず、

すべてが嫌になった…そこまでの記憶しかない。

どうやってここに来たのか、なぜここにいるのか。

考えるとよみがえってくるのは

これまで言われた嫌味や悪口だけ。


だから、考えるのを辞めて目を開けた。


あった。

あの夜と同じ扉が鏡の中に見えた。


嬉しさと不気味さで鳥肌が立つ。

作業台の上にある窓の横に掛けられた、古い鏡の中には

普段なら本棚が映っている。

今はそこに古い本棚はなく、真っ白な扉があった。

金のドアノブが付いていて、手を伸ばせば届きそうな。


そんな気がした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る