第12話 Rewriting the phenomenon(現象の書き換え)

「あんたってさ、自分の都合の良いように言葉の意味を勝手に作り出したりするわよね」

メシヤの屁理屈に呆れがちなマリアが指摘する。


「そうかなあ? でもさ、言葉の厳密な意味にこだわる人って、もし誰かがいたずらで辞書の項目にひとつ別の意味を継ぎ足したとしたら、その人はどう言うんだろうね」

凝りもせずまた屁理屈で返すメシヤ。


「あのねぇ・・・。いたずらでしょ? ホントは違うんだし、その人の言うことが正しいわよ」

メシヤに付き合うマリアは寛大だ。

「その仕掛け人が神様だったとしたら? あとから『こんな使用例が文献で見つかった』なんて話はゴロゴロあるよ。『なんという神のいたずらか』って言うじゃない」


「う~ん・・・。これとはちょっと違う話なんだけど、三丁目にお花屋さんがあるじゃない? そのお花屋さんが出来る前に何のお店があったかで神父さまと記憶が違うのよね。神父様はパン屋さんだって言うんだけど、わたしの記憶ではお米屋さんなのよ」


「それはマンデラエフェクトですよ、マリアくん!」

 メガネもしていないのに、ブリッジを指で押し上げる仕草をするメシヤ。


「マンデラ・・・なに?」

 聞き慣れない言葉に問い返すマリア。

「マリアと神父さまがどこかの時点で別世界のルートに別れたんだよ。昔の自分の記憶と過去の世界の実情がズレていることはあるし」


「そんなこと、あるわけないじゃない! あんたアホに磨きがかかってきたわね」

 憤慨するマリア。


「この現実世界がトゥルーエンドかバッドエンドか、きょうの保守党総裁選で判明するかもね」

 止める人がいないとメシヤは喋り続ける。


「そんなことくらいで世界の命運を決められたらたまらないし、それに総裁選くらいで世界は変わらないわよ」

 マリアはさめた口ぶりだ。


「変わらないことを変えたいんだよ。だからさ、現象を書き換えるのさ」


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