第10話 ギブソンタックの女

「アーロンさま、デスヘヴンへの遠征のあいだ、ご心配をお掛けしました」

 裁紅谷レマは、リモートでアーロン・グッドシュミット以色列イスラエル首相と話している。


「よいよい。それよりもグランモルナク殿の様子はどうだ?」

「はい、いまは落ち着きを取り戻し、精力的に活動されていますよ」

 レマはにこやかに返答する。


「ところでアーロンさま。奈保という男についてなのですが・・・」

「ふむ、Mr.ナボか」

 アーロンは奥歯に物が挟まっているようだ。


「あの男に関するデータ、なにひとつ信用に足るものがありません。普通すぎて、ということですが」




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 きょうは北伊勢高校一年生による、街の奉仕活動が行われていた。一年G組の生徒たちも駆り出されている。


 裁紅谷レマは草抜きの邪魔にならないように、長い髪をギブソンタックにまとめている。姉のエリはいつものピッグテールだ。


「メシヤ~、なんでワタシたちがこんなことしなきゃいけないノ~?」

 エリは不満たらたらだ。


「まあまあ。これもコツがあってさ。草刈り機なんて慣れてくるとゲーム感覚だよ、エリ」

 メシヤはいつになくさわやかだ。

「そうですわ、お姉さま。これも誰かがやらないといけないわけですから」

 レマも本心では気が進まないのだが、他ならぬメシヤのこと、調子を合わせる。


「精が出ますね、メシヤくん」

 ゴミ拾いトングで缶をつまみながら、レオンが話しかける。


 レマはやや警戒した目線をレオンにむけるが、彼は目を合わそうとしない。


「超古代はごみ問題をどうしていたんだろうね、レオンくん」

 アトランティス時代においては、プラスチックなどなかったので、いまのように処理に困るということはありませんでした。日用雑貨では麻製品を使っていましたからね。


「それはいいね! リユースしやすいしさ! 片付けや掃除を怠ると病気にも繋がりかねないし」


「メシヤ~、ドブさらいもするのよ!」

 遠くでマリアが泥だらけになって叫んでいる。


「分かってるよ、いまやる」

 メシヤはショベルを持って汚泥をすくい取る。


「これじゃ水が溢れるわけだネ!」

 エリもレマも改心して、汗だくになって働いた。




 放課後、めし屋フジワラの菜園にて。

 以前、裁紅谷姉妹は、メシヤからもらったかぼちゃの種を植えていたのだが、なかなか花が咲かなかった。きょう畑を覗くと、労苦をねぎらうように、雌花の実がぷっくりと膨れあがっていた。












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