第2話 「砂の女」(阿部公房)
以前、あるテレビ番組を見ていたら「女房言葉」といったものが出てきました(今や飛ぶ鳥を落とす勢いの林修氏のコーナーでした)。その中で語頭に「お」が付くものというのがありましたので興味が湧いて後からインタネで調べてみると、自分の知る言葉として以下のものがありました。
「おかか」「おかき」「おかず」「おから」「おこわ」「おさつ」「おじや」「おでん」「おなか」「おなら」「おにぎり・おむすび」「おはぎ」「おはぐろ」「おひや」「おまる」といったものや、別のところでは、「おつむ」「おあし」「おいしい」「おもちゃ」「おみおつけ」なども出てきました。
これらは「お」を付けることで丁寧さを表しているのだとのことですが、「屁」にも「お」が付けられているのはどういった意味の「丁寧」なのでしょうか。また、調べたところには載っていませんでしたが、「おしり」や「おちんちん」や「おまんこ」などもその流れなのでしょうか。どなたかご存知でしたら教えてください。
自分は旧浜北市の片田舎から遠州鉄道(通称「赤電」)に乗って中学・高校へ通学していました。赤電は国鉄(当時はJRではなく国鉄でした)と比べるとストライキというものがまず無く、通学(通勤)トラブルといったものを殆ど体験しなかったのですが、それでも幾度か電気系統か何かのトラブルで電車が間引かれて酷い目に遭いました。赤電の座席構造が車両の前から後ろまで向かい合わせの長椅子で、想像以上の混雑で吊革につかまったおじさんが弓ぞりになって足が浮き、「足が浮いちまったよぉ」と叫んだりする程でした。
ある時の列車遅滞では始発から2駅目から乗車する自分でも吊革がある所まで到達できず、どこにも掴まるところが無い場所に立っていたのですが(大抵混雑時は、乗ったままの向きではなく、いつでも降りられる様に近い側の乗降口、多くは自分が降りる予定の乗降口を向いた姿勢に向き直って立ちます)、その後の駅では、前の駅でもうこれ以上は乗れないと判断して諦める人が出ていたのに、次の駅でまた必死で押して乗って来る人がいるのです。当然前の駅での状況を一切知らない訳ですし、各駅での乗車に時間がかかって更に列車が遅れていくこともあり、遅刻しない様にと鬼の形相で乗って来たんです。
乗り込む際に上半身を押されるということもあるとは思いますが、そもそも人間というのは「逆三角形」の体型の様で、後から後から人が押し合いへし合いで乗って来ると、立っている自分の足は動かないまま、体だけが次第に後方に倒れていく様になりました。
必死で抵抗してもその力に逆らうことはできず、一度重心を失うと後はされるがままです。手提げの通学カバンを全力で掴みましたが案外簡単に引き剝がされ、最初の内カバンは下に落ちずに宙に浮いた状態でしたがいつしかどこかに消えてしまいました。そして、感覚的に(立位が床に対して90度とすると)60度を切ってしまっていると思える角度まで体が後方に倒れこみ、完全に後ろの人に体重を預ける状態になってしまいました。ただ、それは乗降口から続く将棋倒しであり、自分も前方の人と同様の関係になっている訳で、人間サンドイッチ状態は「人いきれ」もあってかなりの「息苦しさ」を覚えました。
自分が乗った時に女子高生が奥に居たことを覚えており、最初のうちは自然とその子を守る様な体位で前方からの圧力に抵抗していたのですが、最後は完全にその子に乗っかる状態になってしまい、気づけばいつの頃からか自分の後方から荒い息遣いが聞こえていました。鼻に抜ける様な「アアッ」とか「ンンッ」とか絶え絶えの様子でした。それに気づいた自分は、
「それ以上押すな!後ろの女の子が苦しんでいるんだ!」
と言おうと思ったのですが、自分も「息苦しくて」大声が出ないばかりか、電車の中の誰もが同じ状況な訳で、言うだけ無駄だと諦めました。そうこうしている内、その膠着状態から妙な感覚が自分の中に生まれ始めました。
「疑似性体験」とでも言うのでしょうか、自分の背部とはいえ体の下で女の子が息を荒らげているのです。初めての経験であり、「いけない!」と思いつつ何故か自然と興奮していったことを今でもはっきり覚えています。 呼吸に苦しみながらもいつしか「こんな通学もいいな」などと思い始めた不埒な自分がいました。
しかし、いつまでもその状況に浸ることが出来る訳はなく、終わりが突然やってきます。通勤通学の大半がバスに乗り換える「遠鉄浜松駅」で一斉に降りることになりました。前の方から順に圧力が弱まり、自分もやっとのことで90度の立位をとることが出来たのですが、ずっと「一体どんな子だろう」と相手のお顔を一目拝みたいと思っていたものの、恥ずかしさから振り返ってその子の顔を見ることができず、少し離れたところに落ちていたカバンを拾って、自分的には「何食わぬ顔」でそそくさと電車を降りた様に思います。
人生何事にも「初めて」があります。それが現実であろうがバーチャルであろうが、その鮮烈な記憶は死ぬまで忘れないものと思います。人生の諸々の「初体験」を面白おかしく綴ってみました。
「おすなの女」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます