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巣鴨警察署を後にした美夜と九条は警視庁に戻った。
千代田区霞が関二丁目一番一号、警視庁本部庁舎のセキュリティチェックでIDカードをかざし、捜査一課のフロアでエレベーターを降りた。ここが美夜達の職場だ。
捜査一課は一から七の複数に分けた班をさらに細分化した少人数のチームで動いている。
チームごとに扱う案件は違うが、連続殺人事件や大規模テロ、警察庁が介入するような重大事件発生の場合は一課内や組織犯罪対策部と合同で三つ以上のチームがひとつの事件を捜査する。
春の大規模な人事異動で警視庁捜査一課も組織が再編成された。異動や退職により様変わりした今年度、警視庁捜査一課を率いる一課長には警視正の上野恭一郎が就任した。
「お疲れ。現場どうだった?」
『腹部に十字の傷がありました。台東区の事件と同一犯で間違いないです』
九条が真っ先に報告した相手は第五強行犯殺人捜査第九係主任の小山真紀。階級は警部補。
彼女が美夜と九条の直属の上司だ。
今日も真紀のコーヒーカップには甘そうな色合いのコーヒーが入っている。コーヒーは砂糖とミルクがないと飲めないらしい。
美夜も真紀に報告事項を伝える。
「被害者はデリヘルのアルバイトをしていました。勤務先に確認しましたが、昨日の21時頃まで渋谷区内のホテルで客の相手をしていたそうです」
「そっか。詳しい死亡推定時刻は解剖待ちだけど被害者は昨日の21時までは生きていた。犯行はその後ね」
昼前にかけて被害者の詳細な情報が続々と一課に届き、デリヘル嬢連続殺人事件として正式に警視庁捜査一課が捜査を担当することが決定した。
*
小山真紀が率いる新生第九係のメンバーは主任の真紀と主任補佐の杉浦誠、神田美夜と九条大河の四人。来年度にはまた人事異動で人員補充が見込めるが、ひとまずはこの四人で九係は始動する。
昼休みの休息もあってないような警察職務。デリヘル嬢連続殺人事件の捜査本部が立ち上がった警視庁では捜査担当の割り振りが決められ、各班ごとに刑事が捜査一課を飛び出していく。
捜査に出掛ける美夜と九条を見送った本部待機組の真紀と杉浦は現時点で集まった被害者二名の情報をホワイトボードに書き込んでいた。
第一の被害者、初瀬明日美が殺害されたのは3月29日。明日美は19時に
人気デリヘル嬢だった彼女の次の予約は20時に池袋駅。
最寄りの鶯谷駅前で迎えの車が明日美を待っていた。
しかし待ち合わせの時間になっても現れない明日美を不審に思った送迎車のスタッフが明日美のスマホに連絡したが応答はなく、翌朝にホテル街の谷間にある台東区根岸一丁目の神社の境内で明日美の死体が発見された。
第二の被害者、前田絵茉は豊島区在住の大学三年生。
絵茉が所持していた交通系ICカードでは21時半から22時にかけて渋谷駅と自宅最寄りの
渋谷から駒込までの所要時間は乗り換えを挟んで30分だ。
明日美、絵茉ともに後頭部に殴打の痕跡あり。気絶した被害者を
二人に強姦の形跡はない。財布の現金やカード類も手付かずだった。
『あの二人をバディに組ませたのは何故ですか? 神田と九条は性格も対照的に見えますし、バディとしてはやりにくいのでは……』
作業途中で杉浦が尋ねた。彼は昨年度まで上野恭一郎が率いていた第二特殊犯捜査係に所属していた。
上野の捜査一課長就任により特殊犯捜査係は解散、杉浦は新しくチームを任された真紀の補佐役となった。
「神田さんと九条くんは所轄時代に合同捜査で顔見知りだった分、打ち解けるのは早かったよ。それに二人を組ませると決めたのは上野一課長なの。早河さん覚えてる?」
『もちろんです。早河さんのお子さんもあれからお元気にされていますか?』
「早河家は皆元気にしてるよ。神田さんが警視庁に配属された当時の早河さんに似てると一課長は言ってた。私も妙に納得しちゃったんだよね。神田さんはあの頃の早河さんっぽい」
(※前作【早河シリーズ】主人公)
「彼らが配属されて2週間、側で見てきたけど神田さんは誰にも心を開いていない、自分を閉じてる人。対照的に九条くんは正義感に満ち溢れてギラギラしているじゃない?」
『確かに。九条は中学生の時にひったくりを捕まえて表彰されたことがきっかけで刑事を目指したって言っていましたね』
「九条くんの動機はベタだけど悪くはないよね。神田さんにはいつか九条くんの存在が助けになる。一課長はそう思ってるみたい」
神田美夜と九条大河は人間性も刑事のスタンスも真逆だ。
美夜は事件を冷静に客観視できる能力を備える一方、被害者にも加害者にも情を入れない。
九条は被害者と加害者の両方に肩入れし過ぎる傾向があるが、持ち前の度胸と正義感は刑事として高いポテンシャルを秘めている。
まるで早河仁とそのバディであった
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