二「タカミムスヒ」

 古事記で天之御中主神あめのみなかぬしのかみいで誕生したのが、高御産巣日神たかみむすひのかみである。

 日本書紀では、高皇産霊尊たかみむすひのみことと表記している。

 また、造化三神ぞうかさんしん別天ことあまつ神の一柱ひとはしらとされている。

(「アメノミナカヌシ」を参照)



 古事記には「みな独神ひとりがみと成りして、身を隠したまふ」と書かれている。

 みな、というのは天之御中主神や神産巣日神かみむすひのかみを含む神々のことを指し、独神というのは男女の区別のない神のことである。

 また「身を隠した」というのが、隠遁いんとん生活を送ったという意味なのか、それとも、ぼんやりとして実体を持っていないという意味なのか。

 しかしアメノミナカヌシと違い、息子や娘が今後の物語に絡んできたり、いろいろな場面で口を挟んできたりしている。



 日本書紀の第七段の一書あるふみ第一では、天岩窟あまのいはやに入ってしまった天照大神あまてらすおほみかみを出させるための作戦を神々たちが相談した場面で、名前だけ登場している。

とき高皇産霊たかみむすひみこ思兼神おもひかねのかみといふかみ有り」

 知恵の神である思兼神が、高皇産霊尊の息子であるという。



 また、同書の第九段本文にも登場する。

「天照大神のみこ正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊まさかあかつかちはやひあまのおしほみみのみこと、高皇産霊尊のむすめ栲幡千千姫たくはたちぢひめきたまひて、天津彦彦火瓊瓊杵尊あまつひこひこほのににぎのみことれます。かれ皇祖みおや高皇産霊尊、おぎろ憐愛めぐしとおもほすみこころあつめて、かたひだしたまふ」

 天照大神の孫である瓊瓊杵尊ににぎのみことのことを、母方の祖父として大変可愛がったという。



 第二十三代・顕宗天皇けんぞうてんのう三年二月一日の条にも、名前のみ記されている箇所がある。

 使いとして任那みまなに向かうよう命を受けた阿閉臣事代あへのおみことしろが、そこで人に取り憑いていた月の神にこう言われたそうだ。

「わが祖高皇産霊尊は、天地をお造りになった功がある。田地をわが月の神に奉れ。求めのままに献上すれば、慶福けいふくが得られるだろう」(『全現代語訳 日本書紀』宇治谷孟うじたにつとむ



 ここからもわかるように、天地を形づくった創造神的な偉大な神として、古くから皇室の祭祀において重要視された。

 名前の「産霊むすび」は生産・生成を意味し、ものを生み出す力を神格化したものとされる。

 だが、神としての性格があまりにも抽象的なためか、民間において祀っている神社はそう多くはない。

 また、タカミムスヒが単独で祀られることは少なく、カミムスヒが一緒に神社へ祀られていることが多い。

 独神と記されてはいるが、男性的と考えられているタカミムスヒとは対照的に、カミムスヒは女性的な性格を持つとされる。



 古事記には別名として、突然「高木神たかきのかみ」という名前が出てくる。

 天若日子あめわかひこという神が、矢をきじめがけて放つと、この矢は雉の胸を貫通して天上まで届いた。

 その先にいたのが天照大神と高木神だったという。

 わざわざ本文中に「の高木神は、高御産巣日神の別名ことなぞ」と話の途中で説明が入っている。



 この高木神は、このあと、ニニギの天孫降臨てんそんこうりんにも大きく関わってくる。

 日本書紀での同様の活動は、別名ではなく、高皇産霊尊が担っている。

 このほかにもタカミムスヒは、オオクニヌシへ統治権を譲るよう圧力をかけたり、神武東征じんむとうせいにおいて霊剣フツミタマを神武天皇に授けたり、道案内役に八咫烏やたがらすを派遣したりと、要所要所で頻繁に登場する神である。

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