危ない贈り物



急いで中に入ると、黒いスーツを着た男が3人。こちらを向いて立っていた。

その視線が一気に僕に集まる。

なにこれ、これはヤバいところに来てしまった。


何もない部屋にスーツを着た男が3人。部屋の窓にはカーテンが引いてあるだけで、あとは本当に何もない。


ところどころ黄色くシミがついた壁と、茶色いコンクリートの床。

少しまぶしいくらいの電気が、よけいに怖い。


僕はやっぱり騙されていて、なんかの組織に殺されるか、なんかヤバいことさせられるか…臓器でも売りに出されるのか……

それとも逆に強盗してこいとか言われたりして……


「おいアラン!そいつ怖がってるからちゃんと説明してやれ」


ハハハとほかの男たちが笑った。


さっきまでの張りつめた空気はなくなり、男たちが笑みを浮かべている。


僕は恐る恐るアランの方を見ると、誰も殺さないから!と、言ってニコニコと笑っていた。


「え?」


「これは僕の部下。みんないい魔法使いだから安心しなさいね」


「いい魔法使いって。 これ、明らかにヤクザに拉致された感じじゃないですか」


「そうだねーでも、人間の世界っていろんな服があるから何着ていいかわかんなくて。とりあえず、スーツならどこでも行けるでしょ。あの髪黒いのがアミダ、その右がジュン。白髪のやつはジルだから」


きょとんとして聞いていると、黒髪の男が話し始めた。


「私たちはセンチュリーという組織のものです。アランさんはその人間界担当のリーダー。これからよく一緒に仕事をするようになるので、そう警戒しないでくださいね」


「あーごめん、センチュリーとかの名前もまだ教えてなかったね。ま、簡単に言うと魔法使いの世界での警察みたいなもんだから。これから通行口がちゃんとできるか見るだけだから危ないことはないよ」


「見てるだけって、こんな部屋の中にできるなら別に僕なんかいなくてもいいじゃないですか」


「そうなんだけどね。この部屋も買い取ろうと思ったんだけど…その、相手が悪くてうまく取引ができなくてね」


「相手、暴力団だったんですね」


「ですから今回は魔力で人間に見えないようにするのです」


また黒髪の男がしゃべった。顔の割にはずいぶん甲高い声だ。



「私たち魔法使いには魔力があります。その魔力は、魔法が使える者ならばモヤモヤとしたオーラとして目に見えてしまうのです。オーラが見えなくても、体で感じたりその場所の雰囲気で察知することができます。これは反射的といいますか、魔法使いの本能のようなもので。魔力のある者にとっては見えなくするということは不可能なのです」


「ま、簡単に言うと魔法で人間に見えなくしても、僕たちには見えちゃって隠れているのかがよく分からないんだよ。だから、最終チェックを人間にしてもらわなくちゃないんだよね」


わかった?あれに入ると普通の人間は死んじゃうからねぇ。

最後にアランはそう付け加えて僕の方に向き直った。


「はい。あの方の説明が今までで一番わかりやすかったです」


ハハハ

また男たちが笑った。


「アランの説明は回りくどくて意味がわかんねーよな。俺らも苦労してるんだ」


アランは少し顔を歪めたが、うるさいなぁ。と言っただけ。

すぐに笑いはなくなって、これから始まることの打ち合わせが始まっていた。


「それにしても、さっきから下が騒がしいね」


アランが言った。


僕は何も聞こえない。耳を澄ましてみるけど、シーンとしているだけだ。


「このビルは1階と2階にしか店舗はないようですが」


「つなげに来てるやつらが何かしてんじゃねーのか?変な場所につなげるし。あの会社あんまりよくないとこなのか?」


つなげに来てるって…そういえば、通行口は魔法使いの世界からトンネルを掘ってるようなものだって言ってたけど。


あんな空間にどうやってつながってるんだろう?


僕はさっきの黒髪の男ならちゃんと説明してくれるだろうと思って、作戦会議が一段落した魔法使いたちに話しかけようとした。



その時だった。


パン!

という乾いた音と一緒に、何かを叫ぶ声。


バタバタ

ガタガタ


多分、下のフロアからだろう。


誰かが走り回って暴れているのか。物が倒れる音や、何かが割れる音がする。


しばらくして静かになったと思ったら、

今度はガンガンという金属の響く音が聞こえた。


「何なんだ?」


「階段ですよ!誰かが非常階段にいる」


そう言っている間に、音の主は最上階のこのフロアにたどり着いたらしく、ガンガンという何かをたたく音は一層大きくなって、うめき声のような、雄叫びのような声も近くなる。


「ちょっと待ってください。人がこちらに来ます」


「そんなことわかってるよ。作業してる会社にはちょっと待つように連絡して」


アランは僕の腕をつかみ、部屋の隅に引っ張る。


「どうすんの?」


「なんとなくわかるでしょ?さっきのは銃で撃った音。下で暴れてたし、外のドアはドンドンしてるし」


「逃げないと」


「派手な魔法は使えないんだよ。どうしようかなー命にかかわるときは多分使っても大丈夫だろうけど。それに、人間の前で魔法使っちゃだめだし」


「アラン。やっぱ人間がうるさいんだ。つなげてるやつは一人で黙々とがんばってるって。で、作業遅れてるらしいぜ」


「じゃあ都合がいいね。今つながって人間に見られたらまずい」


パンパン!


と、今度は2発。

金属のガチャガチャした音も小さく聞こえた。


バン!


という音と共に、走ってくる足音。

何を言っているのかわからない男の叫び声。


『『どこだよ!ゴラァァ!!』』


ビールケースの山に蹴りでも入れたのだろうか。ガランガランと何かが崩れる音がした。どうやらこちらに向かってくるようで。


「ドアをロックして」


アランは小声だけど、今までで一番怖い感じの声で言った。

さっきまでのふにゃっとした適当な感じはもうない。


そして僕は、アランに腕をつかまれたまま部屋の隅で息を殺した。僕とアランを囲むように、3人の男が前に立ってドアの方を向いている。


『開けろぉー!うぉぉーーー、ざけんじゃねぇぞ!』


男の声がする。


この部屋の入り口のドアをガンガンたたく音。足で蹴る音。パンパンと銃の音もするが扉はあかない。


『魔法なんだろ?ここを開けろ!』


「外のやつ人間だよな?」


「魔法使いの感じはしないけど、何か持ってるね」


「あいつら人間にまで手を出したか」


今まであまり発言しなかったジルが言った。

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