接触
移動といっても、普通の人間と同じように僕らは道を歩いていた。
その通行口になる予定の場所は、夜になれば人がたくさん集まる飲み屋街にあった。
母親の経営するホストクラブも近くにある。この辺は僕より兄の方が得意とするエリアだ。
なんでこんな目立つところに通行口を作るのか聞くと、作るんじゃなくて、勝手につながっちゃうらしい。
簡単に言うと、あっちの世界からやみくもにトンネルを掘ってるようなものだよ
と、アランは言った。
幸い今日は平日だから、まだ人通りは少ない。僕とアランは、一階にガールズバーが入っているビルの前に着いた。
ガラス張りになっている店は、店内の様子が丸見えだ。開店前の掃除をしているのか、女の子の姿はまだ見えず蝶ネクタイをつけた若い男が酒の瓶を並べている。
「なんだ、タクミじゃん!」
何やってんだよこんな所で~そう声をかけてきたのは兄とシンヤだった。
「あ、ちょっと新しく仕事しようと思って」
とっさに僕はそう答える。
「仕事って、お前こんなとこで働くのかよ?大丈夫か?誰かの紹介か?ってか急にいなくなるなよ。ケータイつながらないし」
兄が文句を言い始める。
シンヤと会うのは久しぶりだ。小柄な体から僕のお腹にパンチが飛んでくる。
もちろん本気じゃなくて、からかってる感じのやつだ。
前に会ったときはめちゃくちゃ髪が長かったのに、今は耳が出るくらい短くして兄より明るい金髪になっていた。
おしゃれだ、うらやましい。きっとモテるに違いない。
テンションが上がっている彼からはまだまだ攻撃が続いていた。
「ってことは、お店のオーナーさん?店長さん?」
僕がシンヤとじゃれている間に、兄がアランに話しかけはじめる。
「あー、この上の階に新しくお店出そうとしてまして。まだ何でもないんですけどね」
「そうなんですか。見てわかるかもしれないですけど…オレ、タクミの双子の兄です」
兄はちゃっかりホストの名刺をアランに渡していた。
社員になったばかりのシンヤは、俺もやりたいとあわててリュックの中から名刺ケースを取り出す。
「ありがとうございます。私は佐藤と申します」
アランはそう言って二人に名刺を渡した。
「同じ佐藤ですね!え?便利屋なんですか?あー、でも、この辺にそうゆうのがあったら助かるかもな」
「でもさ、この辺のビル持ってるやつ暴力団らしいじゃん」
シンヤは大事そうにアランの名刺をしまいながら言った。
「だね。風俗の入ってるビルは大体それだからって母さん言ってたかも。気を付けてくださいね、佐藤さん。オレたちの母さんちょっとはこの辺に顔きくから、なんかあったら言ってください」
「ありがとう。お兄さんタクミ君と違ってずいぶんしっかりしてるねーうちで働かない?」
そうなんですよねーこいつネクラで…
兄とアランはずいぶん気が合うらしくめちゃくちゃ話し込んでいる。
その間、ビルの横にある路地で、僕とシンヤは一服していた。
「お前、元気か?」
「まあまあ。相変わらずの生活だから、新しく仕事しようかと思って」
「まぁ、無理すんなよな。あとさぁー…」
「どうしたの?」
「この前店にハルカちゃん来ててさ。タクミは元気かって」
フッと、僕は鼻で笑った。
「今さら何なんだよ。もう面倒なことはしたくないし」
「だよなぁ。言いたくないけど、男と一緒に来てたし。よく来れるよなー。ってかあれかな、俺にそうゆうとこ見せれば俺がタクミに言うから、気になって連絡くれるとか思ってんのかな」
「…ありそう」
僕は思い出したくないものがどんどん出てきそうになったから、必死でそれに蓋をする。兄とシンヤはこれから飲みに行って、その後はカラオケに行くらしい。
僕は時間があったら合流する約束をして、兄たちと別れた。
「結構ウソうまいじゃない」
「だってなんて言えばいいんだよ。あいつらに魔法だなんて言ったら頭おかしくなったって思われますよ」
僕らは路地に入り、裏口のようなビルの非常階段の前に来ていた。
「人間の世界の勉強で暴力団とかマフィアとか出てきたけど、結構身近に出るんだね」
「どんな勉強してきたんだよ。ってか勉強したりするんですね。魔法使いも結構アナログな感じだな」
話をしながらどんどん階段を上っていく。てか勝手にこのビルに入って大丈夫なのかな?
「で、さっきお兄ちゃんから聞いたんだけど、暴力団同士の争いみたいなのがあるらしいじゃない」
「はい。僕はよくわかりませんけど。何とか組とか、何とか会とか。たまーにニュースで出たりします」
「ま、どこの世界も同じだね。魔法使いの世界にも派閥っていうか何個かグループみたいなのがあってねぇ」
「グループ?宗教みたいな感じ?」
「んー宗教は宗教であるからちょっと違うんだけど。まぁ…悪い事してる集団とそれを阻止しようとしてる集団みたいな。で、この人間界ビジネスにもその抗争がちょっと入ってきてるんだよね」
このビル何階建てだろう?結構上ったな…非常階段だから風景が丸見えだ。
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