ⅠⅠⅠ
初めての非日常
15年前に起きた事件の裏側。
少しの昔話。
僕らの秘密の場所。
アーケード街から少し入った道を右に曲がって、また右。
さらに右に曲がると到着する。
兄から逃げるように、僕はこの場所に訪れた。
昔と変わらない空間にほっとしたのもつかの間。
「ヒマなら手伝って?」
僕は声がした方に目を向けた。
いつもの向かい側にあるビルの窓が開いていて男が手を振っている。
「ほら早く。何のためにここに来たの」
何を言ってるんだあの人は。
「あの、 これから友達に会うので失礼します」
僕は軽く頭を下げて、あの細い出入り口の方に歩き始めた。
「あー、待って待って。タクミくーん」
名前を呼ばれてドキッとする。
振り返って窓を見上げると、男が笑顔で手を振っていた。
そうして、僕は男が顔を出していたビルの入り口に立っていた。
どのくらい時間がたったのか。
ビルの入り口に来るまで、一瞬だったのか長い間悩んだのか。頭の中がモヤモヤしてよくわからない。
その間に、窓からのぞいていた男の顔は見えなくなっている。
コンクリートでできた灰色のビルに似合った鉄製の銀色のドア。
古くなって輝きもないし、蝶番や下の方は茶色いサビがついている。
ドアノブをひねると
キーーーー
と、予想通り古い金属のすれる音がした。
コンクリート打ちっぱなしの殺風景なエントランス。
エントランスというか、真正面にただの階段があるだけだ。
入ってすぐ左側にめちゃめちゃ汚い傘たてが置いてあって、向かい側には入り口と同じような鉄製のドア。階段下の倉庫といったところか。
せまいし暗いし汚い。
電気は短い蛍光灯が天井に2本あるだけ。
階段の1/2とか書いてある踊り場の所にも、同じような蛍光灯がついていた。
こちらはチカチカしていて今にも切れそうだ。
僕は中に入って階段の方に進んだ。
入り口の扉を閉めると昼間という気がしない。
空気が外より少しだけ重く、冷たく感じた。
こんな所危ないって。
僕はそう思ったけど、あの人なんで僕の事知ってんの?
なんか無視できなくて僕は階段を上る。
踊り場をすぎて2階へ。
放課後の学校で、古い階段を上っているような感じだ。
2/3の踊り場に電気はついていないし、2階の廊下なんてめちゃくちゃ暗い。
窓がないから、天井の蛍光灯だけが頼りなのに、2階廊下はほとんどの蛍光灯がチカチカしていて、お化け屋敷だったら最高の出来だろう。
テナント名が表示されるはずの掲示板は埃まみれで、代わりに
サトウ便利店 右側です
と、貼り紙がされている。
こちらは貼られてからそんなに時間は経っていないようだ。
セロハンテープも新しい。
右側…ね。
窓が一つもない。あやしすぎだろ。
2階フロアの廊下は横長で見渡す限り灰色のコンクリート。
こんな建物、何のために作ったのか。
絶対良くない事をしている所だ。
僕はそんな事を思いながら、廊下に一つだけあるドアに向かった。
こちらのドアは半分が曇りガラスで、少しだけ中の明るさが伝わってくる。
ドアの左側には2階廊下の入り口にあったものと同じ字体で
サトウ便利店
と、印刷された貼り紙がされていた。
入って何かされたらどうしよう。
僕はめちゃくちゃ怖かったけど、なぜか手が動く。
トントン
ドアをノックすると
「タクミ君?」
と。中から声がする。
「はい、でもなんで僕の名前知ってるんでしょうか?」
そう話し終わる前に、ドアが思いっきり開いて僕の額を直撃した。
よろめいた僕は危険を察知してそのまま逃げようとするが、腕をつかまれて動けない。
「ごめんごめん。痛かった?」
恐る恐る振り返ると、スーツを着た男が僕の腕をつかんでいた。
「何なんですか一体。失礼します」
腕を振りほどこうとするが、全然取れない。
「まぁま、コーヒーでも飲んで、仕事の話でもしましょう」
訳のわからないまま、僕は「サトウ便利店」の中に引きずり込まれていった。
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