第4話 鍾乳洞
「引き返すぞッ!!」
オールバックが叫ぶ。
「彼はどうするんだ!このまま置いていくわけには――」
「うわっ!?うわああっ!!!だっ誰か!誰か取ってくれぇぇっ!!!」
今度はチャラ男達とは別の方向から悲鳴が上がる。
アメーバが天井の隙間から頭に滴り落ちてきたのだ。
混乱はますます酷くなり、広間は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。
「じょっ冗談じゃない!こんなとこいられるかぁっ!!!」
半狂乱になって駆け出すサラリーマン、だがその姿は忽然と消えてしまう。
地面が突然、抜け落ちたのだ。
「落とし穴!?罠があるのか!?」
「かまうなっ!走り抜けろっ!」
オールバックが全員に聞こえるように叫ぶ。
確かにこの空間に留まれば命はないだろう。
黒咲の手を取り、一番近い前方の通路へ向け駆け出す。
「足がっ足がアアァっ!!!」
穴に落ちたサラリーマンが叫んでいる。落下の際に足を怪我したのだろうか。
そんな動けない状況の男にアメーバは、容赦なく雪崩れ込んでいく。
「ひぃっばあああぁっ!!!!」
断末魔を上げる犠牲者を尻目に、俺は黒咲と共に落とし穴の脇を駆け抜けた。
「黒咲!これを使えっ!」
「は、はいっ!」
俺の一張羅であるボロくて臭いコートを黒咲の上に掲げ、アメーバの落下から守るように駆ける。
「先輩危ない!」
黒咲の指さす頭上、俺の頭部目掛けてアメーバが落ちてくるのが見えた。
「超能力チョーップ!!!」
タイミングよく必殺の手刀でアメーバを撥ね退ける。
「アチッ!アチッアチッ!」
アメーバに触れた手の箇所が焼けるように痛い。
「だ、大丈夫ですか先輩っ」
「つっ、たいしたことはない!走り続けろっ!」
勿論やせ我慢であるが、痛みに構ってる状況ではない。
とにかく今は、ただ隣を走る黒咲だけを気遣うことに集中した。
周囲の混乱を無視してひたすら走り、広間をなんとか脱し通路に入るが、それでも尚走り続ける。
蛇のように曲がりくねった洞窟内をひたすら駆け抜け、道中分かれ道も幾つもあった気がするが、立ち往生してる場合ではないため、適当に突き進む。
そうして息が切れるまで走り、やがて歩き始めてからしばらくすると、今度は鍾乳洞が形成された空間に出た。
「はあっはあっ・・・・・・。もう、スライムの姿は見えませんね・・・・・・」
スライムて、あの有名ゲームにでてくる雑魚いモンスターか。
「アメ・・・・・・スライムは通常の移動が遅いようだったからな。ある程度距離が離れれば、もう追いつけはしないだろう」
黒咲と一息ついていると、背後から駆け込んでくる足音が響いてきた。
「ぜえっ!はあっ!ぜえぇっ・・・・・・!」
俺達に遅れてメタポ気味のハゲ中年など、後続の人達が続々と鍾乳洞の空間へと入ってくる。
その服はあちこちが破け、火傷の痕が見受けられた。
人数は30人程、この得体のしれない洞窟で大勢の人が散り散りになってしまったという訳だ。
「は、はは。日ごろの、運動不足が祟るね・・・・・・」
中年親父は明るい調子で喋ろうとするが、その顔は酷く青ざめている。
「はあっ。ふう・・・・・・。ここは、安全なのか・・・・・・?」
30代位のメガネを掛けた背広姿の男が、呼吸を整えようと近くの鍾乳岩に手を付き、寄り掛かろうとする。
その横を、何かが通り過ぎた。
「ん?今、首になにか付い――」
メガネ男がそう何かを言い終える前に、首筋から血が噴水の様に吹き出る。
「ひっひいいいっ!!!」
「こ、今度は何だよッ!?」
「ぎゃっ!」
「いたいっ!なによぉっ!」
次々に周囲の人達が手や足を切られ、血を流す者が続出する。
いずれも鋭い刃物で切り裂かれたかのような傷だ。
「空中に何かがいるぞっ!」
薄暗い鍾乳洞の空間を、なにかが高速で駆け巡っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。