第3話 粘着
分かれた通路を進み続けて数十分。
岩だらけの、代わり映えのしない光景がこのまま続くのかと思えてきた頃、学校のグラウンド程あるかと思われる開けた空間に出た。
「止まってくれ。なにかが近づいてくる」
「こわいょ~」
「俺が守ってやるって」
いつの間に拾ったのか、彼氏くんの手には先ほどの錆びた剣が握られていた。
しばらくすると奥の暗がりから人の声と足音が聞こえてくる。
「あん?お前ら・・・・・・」
左に進んでいた筈のチャラ男集団とその他だった。
「なんだよ・・・・・・結局つながってたのか」
「つまんねー」
「なぁおい。なんだあれ?」
チャラ男の一人が指差す方向。
ただの岩壁であった筈の空間に変化が起きる。
うぞうぞと岩壁の隙間から、何か液体のようなモノが滲み出てきた。
しかも一箇所だけではない、広間のあちらこちらの隙間から湧き出ている。
アメーバのような粘度のある液体は、まるで意思があるかのように集まると、スイカ程の大きさにまで膨らんで徐々にだがこちらへと近づいてきた。
「きもっ。なにこれー」
20代位のOLはそう言いつつも、おっかなびっくり近づき。スマホでシャメを撮り始める。
「うへぇ生きてるのか。コイツ」
チャラ男の一人が錆びた剣でアメーバをつつく。
「お、おい。変に刺激するなよ」
バーコード禿のサラリーマンが神経質気味にチャラ男を咎める。
「はは。なにびびってんだよおっさんっ」
チャラ男は、馬鹿にするようにサラリーマンに向けて舌を出し、アメーバへと無造作に近づくと、おもむろに足を振り上げて勢いよく踏みつけた。
不気味なアメーバが抵抗もなく潰れる。
「ハッ。これで生きてようが、死んでようが――」
ドヤ顔で周囲を睥睨しようとしたチャラ男。その足に今しがた潰した筈のアメーバの粘液が絡みつく。
「はぁっ???」
振り解こうと足を振り回すチャラ男。
「んだこれっ!キモッキモッキモッ!」
だがアメーバは離れない。
それどころか這いずるように粘液の範囲が広がり、チャラ男の身体が徐々に粘液で覆われてゆく。
しだいに粘液から煙が出始めると、服が溶け出しチャラ男はパニックになる。
「つっおいッ!ふざけんなクソッ!!!」
肉の焼ける異臭が周囲に漂い始める。
「ギッああああああああっあつううううッ!!!!」
チャラ男の絶叫が響くと、それが合図であったかのように周囲にいたアメーバも、それまでの這いずるような動きを止め、ゴムまりのように跳ねて次々にチャラ男に纏い付いてゆく。
絡みついた粘着液が増大し、チャラ男の身体を覆っていく。
「ひぃいいいいっ!!!うがががっ!ぎっ!たっ助けっ!!!!」
目の前の出来事にただ呆然としていた周囲の男達が、その時点で慌てて助けに入る。
「あっ痛っっ!」
「直接掴んでは駄目だっ!なにか覆うものをっ!」
しかし、思うようにアメーバをチャラ男から剥がせない。
掴もうと触れた箇所が火傷のようになり怪我人が続出する。
時間が経つにつれ、より濃くなっていく肉の溶ける臭いに吐き出す者もでてくる。
「おええええっ!」
「どうなってんだよこれっ!」
「どうすりゃいいんだよぉっ!!」
粘膜はついに頭部まで覆われ、チャラ男は声にならない悲鳴を上げた。
――助からない。
人が、丸ごと溶けいく衝撃的な光景。
「きゃあああああああああっ!!!!!!」
チャラ男の悲鳴の変わりとばかりに、OLの悲鳴が広間に木霊する。
周囲は騒然となり、皆がパニック状態になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。