(七)朝おどろきたれば
「昨夜、岩手県盛岡市の
月曜日の早朝。早苗は
「……住職の話によりますと、その日、オカルト研究会が肝だめしをする予定だったそうで、丹治さんも同じサークルのメンバーだったことが、明らかになりました。第一発見者もサークルのメンバーだったことから、なんらかの事情を知っているものとみて、詳しい話を聴いています」
受け持っている唯一の連載の締め切りに、急ピッチで間に合わせたせいか、徹夜明けで起き上がった早苗の身体は重かった。おまけに、テーブルに突っ伏したまま寝てしまい、身体の節々が悲鳴を上げている。体力的にきつく安定的な給与は見込めないが、駆け出しで収入ゼロだった時代と比べたら、持続的に仕事があるというのは、娘ひとりを養っていかなければならない身としてはありがたい。
フリーライターの難儀なところは、時間的にも金銭的にも、まったくフリーではないということだ。いくら連載に漕ぎつけたとはいえ、替えの利く、雑誌のいちコラムの扱いというものは、相当に低かった。自分の書いた記事を買ってもらうまでは実費のことも多く、名の売れたライターでもない限り、向こうから声がかかることは滅多にない。
ニュースを見終わった早苗は、自室からスクラップブックを持ってきて、ページをパラパラとめくっていく。このなかには、いままで自分が書いてきた記事以外にも、超常現象に関する、一般的にオカルトと呼ばれる記事なども切り抜き、貼りつけてあった。普通の人間である早苗には、それらを識別する嗅覚を持ち合わせておらず、判断のしようもないが、情報を聞きだせる人物が身の回りにいる「特別な」環境下を最大限に活かす。
これらの虚実入り
目的の記事を発見する前に、机の上でスマホが振動する。普段お世話になっている、東京のほうの出版社の名前が、大きく画面に映し出された。このニュースに編集長も関心を示したらしく、東北中のライターに声をかけまくっているのだろう。依頼ということになれば、売り込む手間も省けて、取材費を受け取ることも可能になる。見返りが初めから保証されているとわかっていれば、ある程度フリーに動くことができるかもしれない。
二言三言を
「……ということなので」
早苗に対面した彩が「これから一週間、
彩が胸を張る。「うん、任せて」
「その相手って、もしかして……」「ううん、違った。気配が全然。たぶん血縁関係もないかな」
質問の意図を悟ったらしい彩は、頭を振った。その答えを聞いて、早苗は
エンジンをかけ、車を発進させる。目指すは岩手県だ。
到着してから真っ先におこなったのは、飛び込みで今晩の宿を確保し、トランクを部屋に置いておくことだった。場所は天獄寺に近いビジネスホテル。目と鼻の先に陣取って、これから一週間の持久戦に備えるべく、周辺の下調べから始める。その後いったんホテルへ戻ってくると、電源を入れた備えつけのテレビから、夕方のニュースが流れていた。
「丹治さんと同じサークルに入っている複数名が、昨晩から帰宅していなかったことが、新たにわかりました」それは朝に見たものと同じ、いや、微妙に違う続報だった。女性の生前の顔写真が、左下には映し出されている。「事件に巻き込まれた可能性を視野に入れ、警察では目撃情報を呼びかけています」
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