(六)新たしき夢を見む
その日の夜。テレビもスマホも、外部との接触をすべて禁じられた稲穂は、たったひとりの静かな夕食を済ませ、午後七時には入浴も終わらせることにする。風呂場へ足を踏み入れた稲穂は、彩の言葉を思い出し、慌てて脱衣所へと戻った。あのメモを洋服のポケットから抜き取って
「
シャワーを浴びた瞬間、稲穂の身体からは光り輝くものが
「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え……祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え……」
稲穂は呪文を繰り返し唱える。
シャンシャンと鳴り響く音が、はっきりと外から聞こえ、それが、次第に近づいてくる。稲穂は理由もわからずに、充分に温まっているのにも関わらず、身体中が震え上がってしまう。あの光がなんだったのか、確認しようという勇気が起きるはずもなく、脱衣所へ繋がるドアを開け、浴室を脱出するので精一杯だった。
きょうの不審者が、すぐそこまで、再び迫ってきていたのだろうか。言い知れぬ不安感と、底知れぬ恐怖感に
部屋へと戻った稲穂は、かけ
…………。
……。
なんだか、外が騒がしい。せっかく眠りにつけたというのに、いったいどうしたというのだろう。稲穂は眠い目をこすって、そっと
「大丈夫だからね、稲穂ちゃん」
起こしちゃった? という申し訳なさそうな声色で、その女性は稲穂に向かって大きな身体を折り曲げ、優しく話しかけてきた。
「ええ、わかってる。
そのキツネの予想もしなかった返答に、女性は眉根を寄せていく。キツネは慌てて「もちろん、
「
指示を出されたキツネは、奥の座敷のほうへと駆けだしていく。稲穂の後方から「あ、あの。いったい、なにがどうなって……」と不安げな、声を震えて質問する人物がいた。振り返ってみれば、そこにいたのは自分の母親である。少しだけ若返ったように見える早苗の膝元に、稲穂はわけもわからずにしがみつく。
「
言いかけて、女性は口を
見覚えのある天井。そこが自室のベッドであることには、すぐ気がついた。さっきまで稲穂が見ていた、どことなく既視感を覚える映像が、自分の記憶を
まだまだ夜は長いというのに、いままで感じたこともない恐怖心に襲われていた。
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