(五)祓への詞を奏上せり
野菜を買いに行ったはずが、戻ってきた彩は、さっきのとは品種の違う、茶色いニワトリを
畑より、養鶏場の場所を探し当てるほうが難しいのでは、という言葉を呑み込む。クーラーボックスいっぱいの魚に目を落とし、それから、いま彩が
「ち、直売よ、直売」稲穂の怪しむ雰囲気を察知してか、彩は片手を
ツッコみたいことが、いろいろとありすぎて、脳の処理が追いつかず、逆に口を
最も近いスーパーでも、徒歩は二時間かかったはず。バスで行っても迂回するし時間も決まっているから、帰ってこられるのは早くても三時間後になるだろう、と思っていたのだが、あっという間に彩は帰宅してきた。出て行ってから、一分もかかっていない。電話でもしたのだろうか、彩
その知り合いを待っているあいだ、彩は惚れ惚れとするほどの
母が仕事で手が離せないときに料理をつくっていたことも多いから、数ある家事のなかでも得意の部類だ。メイラード反応の香気が立ち込めるにつれ、彩は鼻をひくつかせ、ぼそりと「
それから一時間後、稲穂が食事を済ませるにも
濡れた手を拭きつつ、あとを追って稲穂もついていくが、ひょこっと顔を
「けっこう多かったね。これ以上は入らなさそう。一週間は持つかな、たぶん……」
彩は不安げな表情で、稲穂のほうへ目を向ける。その視線は稲穂の腹へと注がれ、いかにも「
「んじゃあ、次は……」ガサゴソと、いつの間にか出現していた巾着のなかをまさぐり、数枚のお
稲穂は受け取ったお札を、いまいるリビングの窓から順番に貼っていき、一階から二階へ、家の
風呂場のシャワーから、水が勢いよく出てタイルを弾く小気味のよい音が聞こえていた。覗くと、服が無造作に脱ぎ捨てれている。少しして、
「じゃあ、始めようか」
これらは、いったい、なにを意味しているのだろうか。このときの稲穂は、知る
彩は深呼吸したあと、祭壇へ向かい、二拝二拍手一拝をする。口元を隠すように大幣を顔の前で持ち、次に稲穂へ向かって「低頭ください」と
「
稲穂の正面へ彩が戻ったところで、ちょうど
「毎日一度、これを唱えて。お風呂に入るときがいいかな。シャワーを浴びながら、同じことを三回」彩は三本の指を立てて、いい? と念を押した。「これを一字一句、間違えずに唱えるのよ。それを七日間、続けて」
「彩も出ていっちゃうの?」
「いま、この家は護られているから平気よ。家のなかにはいられないけど、外で見張っているから大丈夫」不安げな稲穂を見かねてか、また鬼が現れたら退治してあげる、という心強い言葉が、彩の口から出てくる。「だからね、お願い。七日間は、なにがあっても、この家に人は入れないで」
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