(三)鬼女の脚を奪はれまいと
「ふぎゃっ!」
風が巻き起こった瞬間、市兵衛は屋根の上から戦況を観察していた。風の一端がぶつかっただけなのか、それとも鬼女本体がぶつかってきたのか、スピードが速すぎて見えなかったが、身体を吹き飛ばされてしまったのだということだけは、市兵衛にもわかった。屋根を数メートル転がり、背中を強打して勢いづいた身体は、そのまま上空へと放り出される。
このとき市兵衛は、一匹だけ戦いに加わらず、別の作業をおこなっていた。
身体が空中に放り出されたとき、悲鳴を上げた市兵衛の口から風呂敷が離れてしまう。市兵衛が回転するたび、目の端に
「
努力の
見おろすと、まず目に飛び込んできたのは、くっきりと割れた谷間。頭を
「なにをしているんだ。大丈夫か?」とおりかかった弥兵衛が、心配そうに、はたまた
ぐうの音も出ない。だが、わかってはいても気が動転してて、服を形成するだけの余裕がなかったのだ。ましてや、手だけなんて。そこまで気が回っていたら、こうはなっていない。反論する材料を求めて前のめりになるが、どこからともなく
「
どちらかが
「あの右脚は?」「あ……。……あれ?」
人目につけず持ち運ぶため、風呂敷に包んでおくよう指示を出した弥兵衛が、ついさっきの記憶を
彩と弥兵衛は、慌てて風除室のなかへ飛び込んだ。玄関を開けてリビングの横を素どおりした彩は、そのまま二階へと上がっていく。早苗は突然の訪問に、一瞬だけ驚いた様子だったが、入ってきたのが見知った人物だとわかり、すぐにパソコンへと向きなおる。軽く「いらっしゃい」と
いきなり現れた人物に対し、稲穂は腰を抜かしたまま目を丸くしている。相手が先ほどの鬼ではないことに気づき、
風呂敷を拾い上げ、なにごともなかったかのように、急いで背後へと隠す。稲穂を先に階段から下ろさせ、向かって左側に見えるリビングへ行かせた。パソコン作業を続ける早苗の横で、彩は風呂敷を置き、稲穂のもとへと歩み寄っていく。わずかに風呂敷から、右足の親指が飛び出しているのを見てしまったが、それに気づかせまいと、彩は稲穂の気を
「これから一週間、この部屋に
目を
…………。
……。
正午近く、五瀬家から
「……派手にやられたな」
「お父上……」痛みを必死に
「謝るな。こちらの失態だ」懇願しようと口を開きかけた鬼女を遮り、お父上と呼ばれた別の鬼が首を大きく振った。「それで、誰にやられた?
「はい。女の子とキツネが……」慎重に言葉を選びながら、鬼女は話を続ける。「たぶん後胤の
「そうか。霊能力者と
「
まるで意に介さないかのように、朱雀はふたつのサイコロを指で
「ああ……きょうは気分がいい。サンゾロの
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