(二)鬼のかく乱と云へり
彩は叫び声をあげて威嚇し、稲穂の部屋へと転がり込む。炊きたての新米のような、白くて柔らかそうな稲穂の脚を
しかし、やたらめったらと小刀を振り回すまでもなく、部屋のなかへ陽光が差し込んだのと同時に、この触手の姿かたちは消え失せていった。陽光の出所を探って窓へ目を向けると、あの
「これは渡しません!」
その布の周りで、二匹のキツネが走りまわっている。市兵衛が右足を
重力を利用して勢いよく斬りつけたあと、すぐさま相手からの距離を取った。布から、わずかに血が
しかし、相手は間違いなく鬼である。しなやかな勾玉のようだが、それでいて先が鋭く
「……あっ!」
予想外の行動に彩は対応できず、
狐松明の火力でも断ち切ることができる程度の触手だが、なんせ数が多すぎて攻撃が間に合わない。てっきり、この触手は鬼女自身の影からしか生成できないと、彩は思っていた。しかし建物の影でもいいらしく、日影になった面積が多い北側では、広範囲に
心なしか、斬られる前よりも増量しているような気がする。これは思いのほか厄介な存在であり、たった数メートル先の鬼女に近づくことすら叶わなかった。
……ん? 待てよ? ふと彩は、稲穂の部屋でのできごとを想起する。この鬼女がいなくなったあと、触手は部屋のなかから消失していた。そして、わざわざ遠い北側へ逃げ込んだのは、なぜだろう? 稲穂の部屋からは南側のほうが近かったはずだが、わざわざ風除室を飛び越えて北側へ移動した意味は? 被衣を羽織っているのも、ひょっとして、こういう理由のためだったのではないか?
「鬼の
狐松明を放った瞬間、
遠距離から弥兵衛が狐松明を連発すると、どんどん削られていく触手の様子に鬼女は
「しまっ……!」かろうじて盾にした右腕の隙間から開いた目で、彩は、さっきまで目の前にいたはずの鬼の行方を探った。「た……?」
この無防備な状態で、もし攻撃されてしまったら、ひとたまりもないだろう。ところが、風が
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