(五)グラウンドの上にて往ぬ
弾かれた
なおも、地面の揺れる感覚があった。どうやら
彩は
即座に彩は立ち上がり、上に載ったジタバタと
「まさか弱点がアキレス腱だったとはね。もしかして、逆さまで川にでも
ウィットに富んだジョークをかますだけの余裕は出てきたようだった。しかし、この季節では小刀しかつくれない。小刀だけじゃあ、トドメを刺すのも、ひと苦労しそうだ。彩はため息を吐く。宿儺の頭頂部に狙いを定め、彩は小刀を構える。なるべく痛くないようにするからと、呼吸を整えて心の準備をしていたとき、不意に風向きが変わった。文字どおり、吹いていた風の向きが変わる。
「
これは、
…………。
……。
勢いよく全身を叩きつけられている。人生で初めて雨に打たれたような気がする、と稲穂は思った。校舎を横切る際、亀裂が入った壁を目の当たりにする。貫通はしていないようだったが、弾痕とも見分けがつかぬ穴が無数に開いている。なにがなんだかよくわからなかったが、ここで立ち止まってはいられない。あのまま待っているのが嫌だという、ただそれだけの思いで飛び出してきてしまったが、どこにいるかもわからない彩を探すことなんて、できるのだろうか。
それでも、臆病な自分が大嫌いだった。彩と一緒に、教室へ戻りたい。体温が急激に奪われていくなか、稲穂は徒競走の自己新記録に負けないくらいの全速力で走っていた。
もう何十分間も、グラウンドをぐるぐる回っているような気がする。ここがグラウンドなのかも、もはや判然としなくなってきた。もし、ここがグラウンドではなかったら、わたしはいったいどこを走ってるの? 稲穂は言い知れぬ不安感に
「あ、彩……」稲穂は、押しつぶされそうな気持ちを
「まさか……だったとはね。……にでも浸かった?」
彩の声だ。間違いなく、聞き
矢を運んでいった風が轟音とともに横切っていく。一瞬のことで、なにが起こったのか瞬時にはわからなかった。太い幹を有する結構な大木に、一瞬にして亀裂が生じる。地震でも起きたのかと間違えるほどの衝撃をグラウンド中に与えながら、その木の向こうにあったフェンスを
どこから湧いて出てくるのか、風を切る音は雨音に
そんななかでも、稲穂は立ち上がり、走り続け、やっと彩の姿を視認する。彩の前方には、彩と対峙する不審者の姿も確認できた。しかし、その
近くまで来てしまったため、稲穂は
その風に乗って、妙な匂いが鼻腔に届く。一面が
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