第296話『ポチョムキン村・5・広場のお祭り騒ぎ』

魔法少女マヂカ


296『ポチョムキン村・5・広場のお祭り騒ぎ』語り手:マヂカ 





 コクンと頷いて、ほんの一瞬エリザはフリーズした。



 ほんとうに一瞬の事で、エリザはすぐに、またステップを踏み始めた。


 印象としてはループしている。


 大事な秘密を明かして、次の行動に移ろうとして躊躇っている。そんな感じだ。


―― なにかあるのか? ――


 悟嬢が目だけで聞いてくる。


 リズムをとって、エリザのダンスに手拍子を打って合わせてはいるが、中国有数の魔法少女。この桃源郷の底にあるものに気付いて、どうしたものかと思っているんだ。


 エリザのステップが、微妙にコマ落としになってきている。


―― フレームレートが下がってきたみたいな感じだな ――


 スペックの低いゲームパソコンで高精細で動きの激しいVRゲームをやっている感じ。


 144ほどのフレームレートが72に落ちてしまったような……遠景の景色も微かにエッジが立ってきている。アンチエイリアスの値が下がってきたみたいな、テクスチャのクオリティーが落ちてきたような気がする。


「エリザ、村の広場に行ってみないか。どうせ踊るなら、みんなと一緒の方がいいだろ」


 思い切って提案してみた。


「ああ、それがいい。あたしも爺ちゃん譲りで賑やかなのは好きだし」


 悟嬢も賛成してくれて、エリザともどもリズムを取りながら広場に向かった。




 広場は、もう村人たちが集まってお祭り騒ぎになっていた。




 広場の真ん中には、太鼓とリュートとバイオリンの村人が、とても三人だけじゃないだろうという演奏をして、その周りを村人たちが二重の輪になって踊っている。


 わたしたちの姿に気付くと、村人たちは輪の一角を開いて招じ入れてくれる。


 フレームレートは、さらに落ちて36くらい、激しく踊ると分身の術を使ったような残像が残る。


―― プリンセス、ご決心を(^_^;) ――


―― エリザさま、これを逃せば、次はいつか分かりません ――


―― うん、ありがとう ――


―― リアルにもどりましょう ――


―― ここに居れば楽ですが、リアルは、もう収穫の時期です ――


―― 痩せた畑ですが、放ってはおけません ――


―― このままではフリーズしてしまいます ――


―― 初期化されて一からやり直しになってしまいます ――


―― 侯爵が戻ってくる前に ――


―― 女帝がお気づきになる前に ――


―― エリザベートさま! ――


―― プリンセス! ――


―― みんな、みんな、ありがとう! エリザは決心したわ! ――




 シュリーーーーン!




 急ブレーキがかかって逆回転が始まったような嫌な音がした。


 フレームレートは、さらに下がって一桁に落ちると、遠景の方からテクスチャのレベルが落ちて、書割っぽくなって、さらには、消え落ちるものも現れてきた。


 村人たちもフリーズして、パラパラと姿を消していき、ついには、僅かなオブジェクトを残して、わたしたちの他には教会があったあたりに気を失ったミーシャが倒れているだけになった。


「今のうち! 手遅れになる前に!」


「「了解!」」


 ちぎるように応え、悟嬢と二人跳躍して、畳一畳ほどになった床に倒れているミーシャを抱えて走る!




 グオオオオオオオオ!




 ゴジラのような咆哮!


 咆哮の圧は後ろからやってくる。見ずとも分かる、ポチョムキンだ。


 エリザの裏切りに怒髪天を突いた状態なんだろう。


 ここはひたすら逃げるしかない。


「この孫悟嬢が時間を稼ぐ、マジカはミーシャを、クマさんを逃がせ!」


「おまえは?」


「大丈夫! 爺ちゃんから受け継いだ斉天大聖の称号は伊達じゃない、当分は令和の日本には来れないだろうがね。ゆっくり休んで、またがんばろうぜ!」


 そう言うと、悟嬢は髪の毛を毟って一個中隊ほどのミニ悟嬢隊を作って「セーーイッ!」と渾身の掛け声とともにポチョムキンに打ちかかって行った。


「悟嬢ーーーーーーーーっ!!」


 ビューーーー!


 悟嬢隊の勢いがクマさんを抱いたわたしを前に突き飛ばす。


 しかし、加速がついたのはいいが、どうやって、このフェイクの亜空間から抜け出すんだ?


「う」


 右の中指が締め付けられる。


 見ると、悟嬢からもらった指輪が光り出している。


「そうか!」


 インスピレーションが湧く。


 指輪を抜いて前方に掲げると、一条のビームが伸びて亜空間に台風の目のような穴を穿った。


 チリチリチリ……


 指輪は微小な火花を発しながら痩せていく。


 考えている暇はない。


 クマさんの頭を庇うように体を丸くして穴の真芯に飛び込んだ! 




※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔

サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女

ソーリャ         ロシアの魔法少女

孫悟嬢          中国の魔法少女


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査

ファントム      時空を超えたお尋ね者

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