第297話『墜ちる! 舞鶴の海へ!』

魔法少女マヂカ・297


『墜ちる! 舞鶴の海へ!』語り手:マヂカ 





 チリチリチリ……


 指輪は、ほとんど髪の毛ほどの細さになって、それでも、最後までわたしと変身魔法の解けかけたクマさんを守ろうとして線香花火のようにか細く震えるように輝いている。


 風は下の方からビョービョーと吹き上げて、二人の髪をロウソクの炎のように吹き上げている。


 墜落しているんだ!


 風に抗って薄目を開けると、視界の半分が海、もう半分が陸地。


 陸地は迫りくる海を顎いっぱいに口を開け、怒りを籠めて呑み込もうとしている巨人の横顔のように見える。


 見覚えがある……これは舞鶴の街と海だ。


 オリヨールが礼子の姿で待ち受けていた因縁の港街(063:『舞鶴沖』)。舞鶴の上空でポチョムキンの罠にはまったのだから、その上空に戻ってきて不思議ではないんだけど、因縁めいて見えなくもない。


 魔法が解ける瞬間は、自分の魔法ではない限り爆発に巻き込まれるようなものなので、どこに飛ばされるか知れたものではない。


 それが、そのまま舞鶴の空……感傷に耽っている場合ではない。このまま落下すれば、たとえ、そこが海の上でもただでは済まない。海面か地面に叩きつけられてバラバラになってしまう。


 魔法少女は、それでもソウルが残るから、いつの日にか復活は出来るだろうが、生身のクマさんはお終いだ。


 百年前の大正時代から拉致され、令和の時代にファントムの傀儡にされたまま死なせてしまうなんて、魔法少女として完全な敗北だぞ!


 最後の可能性に掛けて指輪に命じる――パラシュートになれ!――


 チュ チュパ!


 少々頼りない音をさせて、指輪は小型のパラシュートに変貌した。


 相当無理をして姿を変えたので、傘の膜はラップのような薄さだ。それに、落下速度が少々速い。着地に工夫をしなければ、クマさんに大けがをさせてしまう。


 う、う~~~ん


 しかめるような表情をしてクマさんは気が付いた。


「クマさん、気が付いたか!?」


「chto so mnoy sluchilos……?」


 だめだ、ロシア語だ!


「ニェット……真智香さん!?」


「おお、戻った!」


「この風は……なんだか墜ちているような気がするんですけど……富士山の山頂ですか?」


「いや、わけあって、舞鶴の空から墜ちていくところだよ。なに、心配はない。落下傘でゆっくり墜ちていくところだから。そうだな、お屋敷のパッカードのボンネットから飛び降りるぐらいの衝撃だよ」


「それなら大丈夫です。お屋敷の木に登って降りてこれなくなった猫を抱えて飛び降りたことありますから」


「それなら、心強い」


「下りたら、健人さんには、いえ(^_^;)お嬢様には会えるんでしょうか?」


「あ……いや、ここは、大正時代から百年先の令和の時代の日本なんだ」


「百年……れいわ……?」


「うん、大正、昭和、平成、その次の令和……あ、大正時代の人に未来の年号を教えてはいけないんだ」


「大丈夫です、人には言いません。でも、年号があるということは、大日本帝国は健在なんですね」


「ああ、大丈夫だよ。あんな震災でどうにかなるような日本じゃないよ」


「よかった、お国があれば高坂侯爵家も盤石です。主義者の人たちは『年号なんて封建制の遺物だ天皇制とともに葬らなければ』とかおっしゃいますから」


「あはは……言ってるうちに地上が近くなってきた。クマさん、念のために海の上に降りるよ。ちょっと濡れるけど辛抱してね」


「はい、大丈夫です!」


 見上げるとラップのように薄いパラシュートは、あちこち綻び始めている。グズグズしてはいられない。


 ポチョムキン村の残滓が人魂のように溶けてボタボタと落ちていく。エネルギー残滓のようなもので、触れても害はないだろうが気味が悪い。


 体を捻りながら、操作索を操って桟橋から二十メートルほどの海面に的を絞った。


「ま、真智香さん、あれ!」


 クマさんが頬を引きつらせて眼下の海面を指さした。


「あ、あいつは!?」


 海面には、やっつけたはずのアリヨールが半透明の姿でオイデオイデをしている。


「くそ、亡霊が力を得たか!」


 残滓……海面に降り注いだ残滓を浴びて力を取り戻したか!


 このまま海面に下りては海に引きずり込まれてしまう!


 わたしは目まぐるしく頭をめぐらせる……海面まで数十メートル! すぐに考えは浮かばない!





 南無三!!


 


※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔

サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女

ソーリャ         ロシアの魔法少女

孫悟嬢          中国の魔法少女


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査

ファントム      時空を超えたお尋ね者

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