第272話『富士山頂決戦・3』

魔法少女マヂカ


272『富士山頂決戦・3』語り手:マヂカ  





 うちらが上がってきた時には、カルデラの上にはまだ次元の狭間がインクの染みみたいに残ってた。


 ビョ~~~


 カルデラの縁を撫でるみたいにして風が渦巻いて、ちいさなカケラか埃みたいなもんが吹き上げられては狭間に吸い込まれていく。


「すごい戦いだったんだ……」


 魔法少女とちゃう霧子にも、この風景を見て、ついさっきまでの激戦は想像がつくみたい。


「みんな、あの次元の狭間に呑み込まれてしもたみたいやなあ……」


「次元の狭間?」


「うん、うちらが大正時代に来た時も、ああいうのに呑み込まれてきたさかい、ひょっとしたら、令和の時代に戻って行ったのんかもしれへん」


「それに違いないよ、わたしも、あれと同じ狭間から出てきたんだワン」


 遅れて上がってきた詰子も手を庇にして次元の狭間を見上げる。


「黒犬は、やっつけたんか?」


「うん、ただの犬に戻って逃げて行ったワン。親玉がやっつけられたから、もう悪さはできないワン」


「……マヂカとブリンダは!?」


「令和の時代に戻って行った……かな?」


「そんな……もう、会えないの!?」


「魔法少女が時空を飛ばされてくんのんは事故みたいなもんやさかい、自分で時間を飛ぶことはでけへん」


「そんな……こんな、突然のお別れなんて(-_-;)」


「うちらの力を超えた、なにかの意思が働いてるんちゃうやろか」


「そうだろうね、詰子とノンコが残ってるのは意味があると思うワン」


「詰子、ちょっと、残留してる気配を読んでくれる?」


「うん…………将門さんと巫女さんたち……悪たれのファントム……シャドー……真智香ねえちゃん……ブリンダ……」


「それだけやねんな?」


「うん、みんな薄れていくから、もう、この時代には居ないと思うワン」


「ステッキの気配は?」


「……それは無いワン」


「ということは……まだ虎ノ門事件は起こるんや、主犯の男は、そもそもファントム一味の中には入ってへんかったさかい」


「それは、わたしがやっつけなければならないと云うことなのね……」


「だいじょうぶ! うちが付いてるさかい!」


「詰子もいるワン!」


「そ、そうだね。ここまで真智香とブリンダがやってくれたんだから!」


「……ちょっと待って……もう一人、かすかな気配が……メイド服の女の人、気を失ってるっぽいワン」


「「クマさんだ!」」


「え、クマ?」


 詰子は、こっちに来たばかりでクマさんのことを知らないんだ。事情を説明すると「そうだったんだワン」と理解する詰子。




 オーーーイ!




 詰子が納得して、ようやく霞も雲も晴れて、下の方から声が上がってきた。


 JS西郷を先頭に高坂家の人たちが上がってくる。


 JS西郷以外には時空とかタイムリープとかは理解不能なんやけども、これまでのいきさつと山頂のありさまでザックリの見当はつくみたい。


 JS西郷は――わたしも上がっておけば――という顔をしてたけど、マヂカとブリンダが、万一車組が襲われることも考えていたことに思い当たって口をつぐんだ。


 ああ……あたしと詰子、それにJS西郷で、虎の門事件にあたらならあかん(;゚Д゚)。


 それに、クマさんが帰ってこーへんことを、箕作巡査にどない言うたらええねんやろか?


 振り絞ったカラ元気が、みるみる萎んでいった。




※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査

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