第271話『富士山頂決戦・2』

魔法少女マヂカ


271『富士山頂決戦・2』語り手:マヂカ  






 魔法少女の攻撃は、大きく分けて二種類ある。


 術式による魔法攻撃MA(マジカルアタック)と、剣や弓を持っての直接攻撃DA(ダイレクトアタック)よ。


 いずれの場合も、攻撃の直前に術式を唱えたり、気合いを入れたりする。


 術式詠唱なら「スプラッシュエコー!」とか「ミラクルビーム!」とか。気合いなら「セイ!」とか「ウリャーー!」とかね。


 ところが、将門・ファントム両雄の間に割り込むときは、その詠唱も気合も入れる余裕がない。


 ブン!


 ブリンダと二人、風を切る音しかしない。


 詠唱も気合いの叫びを入れる余裕がないのよ。


 ブン! ブン! ブブン! ブン!


 何度割り込んだだろうか、割り込む度にファントムに魔法・直接両方の攻撃を掛ける。


 攻撃の度に、ファントムが纏っている邪悪の欠片は飛び散るけど、ファントムの本性に至ることが無い。


 それは、四人の巫女たちも同じで、いたずらに魔法少女のそれとは違うアタックエフェクトのスパークを煌めかせているだけだ。


 ドリャアアアアアアアアアアア!!


 それでも我々の攻撃で隙が出来たのか、御大、将門殿の黄金の太刀がファントムの胴を払って、見事に決まった。


 バスッ!!


 ファントムの胴が四半分も切り裂かれ、纏っている邪悪の欠片だけではなく、悪の本性の如き黒々としたものがほとばしり出た。


 ドバババババ!


 すると、それまで遠巻きにしていた12人のシャドーたちが、高速でファントムの傷口に覆いかぶさり、あっという間に傷口を塞いでしまった。


「ファントムは、この将門が討つ! みなはシャドーを討て!」


 適切だ。


 ここは、ファントムの回復に専念しているシャドーから仕留めるべきだろう。


「「了解!」」


 一言だけ返して、ブリンダと二人、カルデラの東西に位置を占めて、シャドーたちを主ぐるみ挟んでしまう。


 呼応した巫女たちも南北に占位して、瞬間で包囲のフォーメーションを組む。


 ブン! ブブン! ブン!


 魔法少女二人、巫女四人、一つのチームのように跳びかかる。


 期せずして、二人一組でシャドー一体にぶち当たる!


 微妙なタイムラグがついたので、シャドーたちに刹那の迷いが走る。


 ジュバババ!!!


 瞬時にシャドーが霧散した!


 巫女たちとは令和の時代に居たころからの仲なので、ギリギリ抜き差しならないところで連携がとれたんだろう。


 ブン!


 蟠っていては将門殿の邪魔になるので、巴を描きながらカルデラの周囲へ。


 見るところ、シャドーは9体に減っている。


 我々に合わせるように陰陽の二神が旋回、ジャキン! ズゴ! 異なる音をさせて、両雄が身構え直す。


 ジュババ!


 哀れにも、2体のシャドーがファントムの腕(かいな)に触れて蒸発してしまう。


 主従共に敵は余裕を失っている。


 ドリャアアアアアアアアアアア!!


 その隙を逃さず、将門殿が再び裂ぱくの雄たけびをあげて、瞬時に斬撃を食らわせる!


 勢いで、大鎧の草摺と大袖が花弁のように広がると同時にファントムの塞がったばかりの傷口から黒々の本性がほとばしり出て、その勢いでファントムはカルデラの縁を削って吹き飛ばされた。


 あ!?


 そこに居た赤巫女は左の手足が千切れて、北の空に吹き飛ばされた。


 北の空には綻びが出来ていた。


 数十合に及ぶ両雄の激突で、空間に次元のほころびが出来てしまったのだ!


 ビョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 すさまじい勢いで富士山頂の空間が呑み込まれていく。


 まず、瀕死の赤巫女が呑み込まれ、残ったシャドーと巫女たちも次々に……ファントムさえ、猛烈な時空風には抗しがたく、身にまとう邪悪が引きはがされて綻びに呑み込まれそうになっている。


 これは、いよいよ滅びなのだろうか!?


「判断がつかないぞ!」


 ブリンダが爪を噛むのももっともだ。


 長年の魔法少女の戦いでも、こんなに巨大な時空の綻びを目撃するのは初めてだ。


「トドメだ!!」


 ブワン!!


 将門殿の太刀が一閃、ファントムは真向空竹割に切り下げられ、切り口から、おびただしい邪悪の本性が噴出する!


 ジュババ!!


「今度は違うぞ!」


 ブリンダが身を乗り出して綻びを指さす。


 噴出した本性は勢いよく四方に飛び散ると、次々にスパークするように消えていく。


 ファントムの姿は、おぼろに崩れながら、ゆっくりと綻びに向かって流れていく。流れながらも本性のスパークは止まず、呑み込まれてもすぐに霧消していくように思われた。


 しかし、呑み込まれる一瞬に見えてしまった!


 残り僅か、切れ切れの本性の中に、眠ったようなクマさんの姿が見えたのだ!


「あれを追え! クマを助けよ!」


 将門殿が吠える。


 ブン!


 言われるまでも無く、わたしとブリンダは跳躍して綻びの中に飛んで行った。


 ドウォォォォン!


 背後で、力尽きた将門殿が倒れる音がして、同時に綻びが閉じてしまった……。





※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査



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