第235話『本命は野次馬の中に』

魔法少女マヂカ・235


『本命は野次馬の中に』語り手:マヂカ  






 なんちゃら勇士!  怪力なんとか!  無双闘士なになに!  剛力なにがし!  なんとか烈女!  ブゥオイナ~  デストロイヤーなんとか!


 勇ましくも怪しげなリングネームがひしめいていたが、公園でデモンストレーションをやっている連中は浅草の見世物小屋の看板みたいな奴ばかりだ。昭和のプロレスのヒール役めいたコスやメイクは威嚇のためというよりは人目を引いて客を引き付けようという感じだ。


「こいつらは、ただのニギヤカシだな」


 ブリンダの言う通り、猛々しい出で立ちや掛け声のわりに、観衆はにこやかで面白がっている。


 トリャーー!


 犬の仮面をつけたやつが空中二回転、空中で決めポーズしたあとに蹴りの姿勢になる。


「試合でやったら、飛び上がった瞬間に蹴り倒されておしまいだ」


 旋風鬼女という女闘士は広げた腕を丸く抱えたかと思うと、コマのように旋回し始めた。


 勢いがあるので、落ち葉や埃を舞いあげて、竜巻のように勇ましい。


「コスの端を掴まれただけで転倒して一巻の終わりだね」


「あいつは、たぶん火を噴くぞ」


 ブリンダが嬉しそうに指さした男は、連続バク転のあと、見栄を切ってゴジラのように火を噴いた。


「すごい、あっちは、ゴリラそっくりだ!」


 大北京原人と名札をぶら下げた奴は、ウホウホと胸を叩くと、ゴリラそっくりに「ガオーー!」と吠えた。


「いや、あれは本物のゴリラだろ(^_^;)」


 公園の管理官のような男が出てきて、付き添いに注意している。


「公園に動物は入れるなと言ってるね」


「試合というよりは見世物という感じか……」


「こいつらは、ほとんど前座のパフォーマーでしょ……本気のやつらは野次馬の人垣の中にいる」


「だな……」



 ピーーーーーン



 意識を野次馬に向けたとたん、あちこちから殺気が返ってきた。


 五人……それ以上いるかもしれない。


 あるものは物売りのハゲチャビン、あるものは眼鏡の書生風、またある者はチャイナツインに髪を結った少女、船員風、中には一瞬のうちに殺気と姿を消した奴もいる。


「キャア、こわいい~」


 ブリンダがブリッコをかますが、ちょっと遅かった。


 同じ女学校の制服を着たアジア系とゲルマン系の少女が近づいてきた。


「あなたたち、魔法少女ね」


「「…………」」


 どストライクに突っ込まれて言葉が出ない。


「それも、21世紀からやってきた」


「でしょ?」


 逃げようと思ったが、ブリンダが前に出てしまった。


「だったら、どーよ?」


「フン」


「やっぱり」


「!」


「相手になっちゃダメ!」


「その声は……日本特務のマヂカだね」



 ゾワゾワア!



 四人の真ん中に旋風が巻き上がる。


 実力の伯仲した魔法少女が対峙すると、空間が張り詰めて局所的な竜巻や嵐を起こしてしまうのだ。


「おまえたちは!?」


 ブリンダの髪が逆立つ。


「プロイセン魔法少女のメルケルよ!」


「満州魔法少女の剣旋嬢!」


 くそ、こんなところで戦うわけにはいかないんだけど……。


 周囲の野次馬たちも、あまりの殺気に注目し始めている。


 仕方ない、公園の外にダッシュして、なるべく短時間で勝負をつけるか……


 

 ちょっと、あんたたち!



 人垣の向こうから声がした。


 


 ※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査


 


  

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