第236話『孫悟嬢の忠告』

魔法少女マヂカ・236


『孫悟嬢の忠告』語り手:マヂカ  






 お、おまえは……!?



 人垣の中から現れたそいつは、見かけこそ女学校の生徒だけど、発しているオーラは中国、いや大陸一番の怪物だ。


 孫悟嬢。


「いまはヨーロッパにいるはず……」


「なに、言ってるの、マヂカこそ、ヨーロッパとモスクワの間を行ったり来たりでしょ」


「それは……」


 そうなのだ。関東大震災のころは、第一次大戦の事後処理のために東奔西走していて、昭和になるまで日本の土は踏んでいない。


 そして、目の前の孫悟嬢も同様で中国には戻ってきていないはずだ。


「革命を阻止するためにはヨーロッパでの活動も重要だけど、足もとも固めなくちゃね。流れに棹差すのは魔法少女かもしれない。でも、魔法少女が竿をさせるのは流れがあるからこそ、流れは水があってこそ生まれるものでしょ、水を涸れさせないためにこの夏は大連に来ているのよ」


「今度の武闘会には出るのか?」


「出ないわ、だって、わたしは主催者……陰のだけど」


「ねえさん、こいつらは?」


 剣旋嬢が怖れと興味の入り混じった目で孫悟嬢に顔を向けた。


「武闘会参加者の後援者でしょ?」


「ああ、下見を兼ねて登録の手続きにね」


「そっちの金髪のは?」


「メルケルと似たような立場……たしか、ブリンダ?」


「そうだ、オレはお前に会うのは初めてだけどな」


「おお、オレ少女!?」


「これが普通だ、生まれはカンザスだが、育ちはテキサスだからな」


「こいつらじゃないいんですか、ねえさん?」


「ちがう、あいつは化け物だけど、今度は実名で出てくるはずだ」


「なにか、ヤバイのが邪魔しにくるのか?」


「邪魔だけど、試合には堂々と正面からつぶしに来ると思う」


「だれ、そいつは?」


「お、闘志が湧いてきたかい、マヂカ?」


「邪魔する奴なら、排除する」


「そうか、なら、それなら仲間だ。わかったか二人とも」


「ねえさんが、そう言うなら」


「わたしが言うからじゃない、それくらいは分かるようになれ」


「う、うん」


「メルケルは」


「ヤー」


「ヤなのか!?」


 ブリンダが尖がる。


「すまない、こいつはドイツ語で返事したんだ。な?」


「ヤー」


「その化け物というのは、どういう奴なんだ?」


「ラスプーチン」


「「ラスプーチン!?」」


「ま、おまえらも気を付けてくれ。それから、試合には間がある、よかったら爾霊山(にれいさん)に寄ってみてくれ、見晴らしのいい山だからね」


「爾霊山か……」


「じゃ、わたしは行く。奴は試合は真名で出てくるはずだけど、それまでは何に化けて悪さをするかもしれない。注意してくれ」


「わかった」


 ワアーー!


 歓声が起こった。目を向けると火噴き男の火炎がゴリラの毛に燃え移って煙が立っている。


 ゴリラも火噴き男も、微笑ましいほどに狼狽えて、公園のみんなが笑っている。


 振り返ると、孫悟嬢と弟子の姿も消えていた。





※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査

孫悟空嬢       中国一の魔法少女


 


 

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