第135話『醜女らの誇り』


魔法少女マヂカ・135


『醜女らの誇り』語り手:マヂカ    






 うちらだけでやり遂げますえ!




 ハンナリした京都弁だが、ウズメの強い意思は通じた。


 通じたんだけど、100万馬力でなければ開かない岩戸を、合わせて20万と50馬力にしかならない三人でどうすると言うのだ!?


「うちが、なんで天岩戸の前で踊ったか分かっといやすか?」


「オレは、見たことないが、話ではウズメが狂おしく踊って天照大神の注意を引いたと聞いているぞ」


「天照大神が僅かに岩戸を開いたところを田力男が一気に開いた!」


「だから、田力男が居なければ、どうにもならない」


「岩戸というもんは、神の力で閉めるもんどす。デフォルトでは100万馬力が要るけど、踊りで神さんの好奇心を揺すぶると、どんどん閉める力は弱まっていくんどす。つまり、うちらが上手い踊りをすればするほど閉める力は弱まって、最後は向こうの方から開けるようになりますのんや」


「そうなのか?」


「ウズメに二言はおまへん。せやけど、うちの力では出血大サービスいうとこまでは開かしまへん。ここは、お二人にも踏ん張ってもろて、完全開放にまでもっていくんどす!」


「わたしとブリンダにも踊れって言うのね?」


「オ、オレは戦ってばかりだったから踊ったことなんて……」


「ウズメは芸事の神さんどす。願うておくれやしたら、AKBとか乃木坂程度のスキルは身に着けさせたげます! さあ、願いなはれ!」


「え、えと、じゃあ、いっちょう頼むわ」


「それじゃ、ダメだよ」


 ブリンダはアメリカの魔法少女だ。お願いの仕方が分からないのだ。


「こんな風にやるのよ」


 お参りの正式な作法である『二礼二拍手一礼』を身をもって教えてやる。


「こ、こうか?」


「背中を丸めちゃだめ、美しく45度の角度まで……背中は曲げない、そうそう、そして、二回拍手して、もう一度お辞儀!」


「よろしおす……これで、こなたさんには、うちと並んで舞う力が備わりましたえ」


「それじゃ!」


 やる気満々になったブリンダは、ステップを踏み始めるが、ウズメは手を挙げて制止した。


「もう一つ言うとくことがおます」


「な、なんだ?」


「ここを閉じてる力は伊邪那美(いざなみ)が、その下僕の黄泉醜女(よもつしこめ)どもの怨念を束ねてやってる災いどす。うちらは、その醜女どもの怨念を踊りで和らげるんどす」


「そうよね」


「分かってる、このブリンダ、一世一代のダンスを見せてやるぞ」


「話は、その次どす」


「「つぎ?」」


「踊りを中断して黄泉の国に踏み込むと、正気に戻った醜女どもが怒り狂って襲い掛かってまいります」


「入ってしまえばこちらのものだ!」


「この風切丸で刻んでやる!」


「醜女一人一人の力は知れてると思うんどすけど、数が読み切れまへん。これをお持ちやす」


「これは……」


 ウズメが手渡してくれたのは十銭白銅貨だ。明治からこっち、何度もモデルチェンジされた貨幣で、穴あきと穴ナシがある。これは、大正時代の穴あき白銅貨、令和の時代の十円玉に相当する、下から二番目の通貨だ。


「これをどうするんだ?」


「手に余ったら、これを目にハメて醜女どもを睨んでやっておくれやす」


「睨んで、どうなるの?」


「醜女どもは一円玉をお守りにしてるんどす」


「一円玉?」


「へえ、一円は、これ以上崩しようのないお金どっしゃろ」


「ああ、一円玉ブス!」


「なんだ、それは?」


 アメリカ人のブリンダには分かりにくい。


「ブスというのは、見ただけで目が潰れると言う伝説の毒なんだよ。これが転じてみるに堪えない醜女のことをブスというようになったんだ」


「UGLYという意味なんだろうが、ずいぶんな言い方だな(;^_^」


「せやけど、そこが醜女らの誇りなんどす。せやさかいに、十銭の目力睨まれると力を失うてしまうんどす」


「そうか、日本人と言うのは面白いことを考える!」


「しかし、一銭を出されたら太刀打ちできなくなったりしない?」


「そら、大丈夫どす」


「なんで?」


「醜女らも代替わりして、みんな戦後生まれの醜女どす。一円より下があるとは思てしまへん」


「そ、そうか」


「ほなら、いきますえーーー!」


 


 ウズメが手を挙げると、ドラムロールがドロドロと鳴るなか、巨大なステージとバンドが現れ。三人うち揃ってリズムに乗った!



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