第134話『時空の穴から黄泉比良坂へ』


魔法少女マヂカ・134


『時空の穴から黄泉比良坂へ』語り手:マヂカ    






 絡みつく瘴気が取れ次第、北斗は進発することにして、わたしとブリンダはウズメに続いて次元の穴に飛び込む。



 ウニュ~~~~~~(;゜Д゜)



 ウズメがブチ開けた時空の穴は、なんとも粘液質というか絞ったゴムかシリコンのチューブの中を行くような不快さがある。


「足から突っ込んだのがまずかったか……コスがまくれ上がって……(;'∀')」


「なんだか……みっともない(^_^;)」


 二人がが文句を言うとウズメが器用に上下を逆さまにしてくれる。


「なんだか、逆子を直すみたいだな」


「時空の穴は、時空と時空の間に産道をつけたようなもんどすから、おつむは進行方向。体の力を抜いて、穴の蠕動運動に身を任せることどすえ」


「そんなものなのか?」


「おお、なんとなく分かるぜ。カチカチのウンチってのは出るの大変だからな(;゜Д゜)」


「ブリンダ、例えが悪い」


「ホホホ、どっちゃでもよろしい。途中で余計なもん見えるかもしれまへんけど、けして目を奪われんようにしとくれやす」


「「余計なもの?」」


 揃って言ったのが悪かったかもしれない。絡みつく襞が透明になり、なにやらスポットライトが当たったように見えてくるものがある。


 日暮里の駅と、その周辺のような……人通りが無く、信号は赤の点滅を繰り返し、時おりゴミが風に舞いあげられている。ビルの向こう側、遠近の数か所から黒い煙が上がっていて、何かを焼く嫌な臭いがする。


「人を焼く煙どす。コロナウイルスの対応に失敗した最悪の未来どすなあ」


 そんなものを見てはたまらないので、シンクロナイズドスイミングのように手足を動かして向きを変える。


「なんだか、日の丸を引き裂いてるぞ……」


 大勢のアジア系とみられる者たちが、日の丸を引き裂いて叫んでいる。外国語なのだが、耳が自動で翻訳モードになって日本語に変換される。


―― コロナウイルスの発現地は日本だ! 日本は謝罪と賠償をしろ! ――


『ちがう、日本は被害者だったんだ』


―― だったら、なんでお礼を言いに来るんだ! ――


『マスクや防護服を送ってくれて勇気づけてくれた、そのお礼だ』


―― 嘘つけ、日本が発現地だと、学者も政府も言ってるぞ! ――


―― 謝罪と賠償だ! ――


 なんだ、これは……!?


「それもコロナウイルスの対応を間違えた未来の一つどす、もうじきどすよって、目ぇつぶっときやす」


「「あ、ああ」」


 目をつぶると、見えなくなり、音声も小さく消えて行った。




 フワフワ




 チューブの中で締め上げられるような束縛感が霧消して、無重力空間に放り出されたような浮遊感がした。


 ドスン!


「「イテ!」」


 マジカとそろって尻餅をつく。


 あたりを見回すと、緩やかな坂道に着地したようだ。周囲は深い木々に覆われ、生臭い水が腐ったような臭い。左の茂みに水面が見え隠れしている。


「あの池に次元の出口が繋がっとったんどす」


「え?」


「あそこから出てきたのか!?」


「一瞬のことどすから、臭いは……首尾よう帰ったらファブリーズどすなあ」


「ハハハ、まあ、すぐに慣れるさ」


「あれが……」


 ウズメが指差したのは坂道の上、そこだけが緑に覆われることが無く、岩肌が露出している。


「千曳の大岩どすなあ」


「え、あれが?」


 近づいてみると、五階建てのビルほどの大岩だ!


「これを動かすのか……?」


「重量……百万トンはあるぞ!」


 一トン動かすのに一馬力いるとして百万馬力以上の力が居る。


「ブリンダの出力は?」


「オレは、せいぜい十万馬力だ」


「わたしも、それぐらいだ。ウズメは?」


「五十馬力くらいどすやろか?」


 え、合わせて二十万馬力ちょっと……ぜったい無理だ。


「思い出した! ウズメさん、踊るのはあんただが、岩を動かすのは田力男命(たぢからおのみこと)だ!」


 田力男は高天原最高の力持ちで、たしか相撲取りの守り神になっているはずだ。


「タヂカラさんは、せいぜい百人力どす。まあ、天岩戸よりも小振りやさかい、大丈夫、最後は魔法少女はんお二人の力でも開きますえ(o^―^o)」


 嘘だろ……。




 




 

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