第130話『太秦あたり・1』

魔法少女マヂカ・130  


『太秦あたり・1』語り手:晴美 






 西に向かってるから気を付けろ。




 二条で百鬼夜行を躱した。


 危ないところだったけど、マヂカたち正魔法少女の機転で乗り切れた。


 山陰線は二条を過ぎて、大きく西へ曲がる。


 まだ彼方ではあるが、黄泉比良坂のダークメイドと正対する。気は抜けないのだ。


 だから、誰に言うともなく注意喚起をした。


「……なんだか視線を感じるよ」


 一番子どもっぽいノンコが言い出したのは意外だった。


「正面……少し北に寄れた方角からです」


 加減弁に手をかけて友里がこちらを向く。機関士なので、視線を投げかけててくるものを気にしているのだ。徐行して様子を見るか、戦闘を避けて全速で突き抜けるか。


「すごい目力……パルス弾打ちますか?」


 砲雷手の清美は視線の主を威嚇して突っ切りたい。


「正体は分かっているが敵性の判断がつかない、原速で走れ」


「「「ラジャー」」」


「あの目力はなんなのニャ―?」


「妙心寺の八方にらみの龍だ。様子を見ているのだ、敵認定されたら襲ってくる……」


 四百年の昔、狩野探幽が八年の歳月をかけて命を吹き込んだ傑作、敵に回せば面倒な相手だ。


「十一時の方角に多数の敵性反応! 忍者と思われる!」


 清美がモニターに映像をあげる。北斗の高性能レーダーが数十個のドットを浮かべている。


 忍者に特有のドットで、現れては数秒で影が薄くなる。忍者は動いた瞬間でしか影を捉えられない。ドットは明滅しながら北斗を取り巻こうとしている。


「マヂカ、正魔法少女三人で当たってくれ」


「ラジャー」


「おそらくは太秦映画村の忍者、数が多い。全滅させなくてもいい、優勢のまま突き抜ければ振り切れる。劣勢になれば、様子見の龍も襲い掛かってくるぞ」


「了解!」


 マヂカが飛び出すとブリンダとサムも後に続く。


 忍者たちがマヂカたちに指向すると、さらにその向こうに新たな気配。


「注意しろ!」


「眠っているように弱い気配です、全速で突っ切れば……」


「甘いよ友里、あれは広隆寺の弥勒(みろく)だ。侮ってはいけない。やつは平安京が出来る前からここにいる。眠ったような目が開くか、頬にあてた指が動くようなら攻撃のシグナルだ。清美、いつでもカウンターを食らわせられるようにチャージだけはしておけ」


「ラジャー」


 清美はゆっくりとパルス砲のエネルギーを120%に上げ始めた。パルスガを使えば確実に撃破できるが、こんな序盤で奥の手を晒すわけにはいかない……小倉山のトンネルを抜けるまでは気が抜けない。


 今のところ、我が方は連携の良さだけが頼りか……。


「どうぞ」


 ノンコがハンカチを差し出す。自分が脂汗を流しているのに初めて気が付いた。


 

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