第129話『二条大路の百鬼夜行』


魔法少女マヂカ・129  


『二条大路の百鬼夜行』語り手:マヂカ 






 クルーである調理研の三人と隊長は残ってもらった。北斗を守らなければならないからだ。




 ミケニャンも戦力にならないので残してきた。


 二条駅の妖に戦いを挑むのは、わたしとブリンダとサム、三人の正魔法少女だ。


 


 駅の改札を抜けるとセピアの電灯が灯った待合室。正面は車寄せの付いた正面出口、勢いで外に出たくなるが、様子を窺うために立ち止まる。


 示し合わせたわけではないが、ブリンダとサムも歩みを止める。


 三人とも魔法少女として同程度のスキルを持っている証だ。


「貴賓室……」


 呟いただけで、一番近くのサムが瞬間移動して貴賓室をロックした。


「ロックしたわよ。何者かの気配がしたけど、封印しながら威嚇したら、直ぐに大人しくなった」


「問題は外だ。すごい量の妖気を感じる」


「ステルスの呪(しゅ)をかけてから出よう」


 印を結んで、自分に呪をかけ、サムとブリンダにも念入りにステルスの呪を掛ける。


「このステルス、視界がボケる」


 サムはカオスの魔法少女なので、我々には出ない副作用があるようだ。


「少しすれば慣れるだろうけど、それまで、オレとマヂカの間にいるがいい」


「うん、そうさせてもらう」


 


 駅前に出てサムが慣れるのを待つ。




 ザザザザ ザザザザ ザザザザ




 かなたの前方から、なにか大勢の者が寄って来る気配がした。


「来るぞ!」


 ブリンダが身構えつつサムを後ろに庇った。


 この気配は……?


 息を潜めつつ記憶を探る。


 都は二条付近の妖どもに関する記憶……。


「一つ一つは非力な妖だが、数が多すぎる。まともに相手をしていたら、漏れたやつが北斗に迫るぞ」


 そうなのだ、この気配は百や二百の数ではない。地獄の底から陸続として湧いて出てくるのではないかと思われるくらいだ。


「湧いて出てくる……」


「無限なるものには対応の仕様が無いぞ」


「こいつらは……」


 思い出した、こいつらは平安の昔から丑三つ時の二条通に現れ、目にしたものを様々な不幸に陥れるという妖のパレードだ。


「どうする? 三人で掛かれば時間は稼げるが……」


「北斗がな……出発しても、無限に二条駅がループするんじゃ意味ないし」


 こんな序盤で足踏みしていては、永久に黄泉比良坂には着けない。恐るべしダークメイド。


「ねえ、これってアキバのダークメイドの仕業なんだよね?」


 ブリンダの陰に隠れていたサムが、なにかを思いついたように指を立てた。


「うん、だから黄泉比良坂に……」


「アキバって言えば、いろいろ規則があったでしょ……過度に露出するコスはダメとか、チラシ撒いていい場所とか、プラカードの規制とか……そもそも交通のルールとかは……思いついた!」


「あ、サム!」


 言うが早いか、サムはテレポしたかと思うと、通り一つ向こうまで迫ってきた百鬼夜行の先頭を阻むように立った。


 そして、パチンと手を叩いて、何かを実体化させた。こちらからではよく分からない……が。


 百鬼夜行は、その出現したモノのために行進を停めたではないか!




「サム、いったい何をしたんだ!?」




 戻ってきたサムにブリンダが詰め寄る。


「アキバってば、中央通とか昭和通りとかあるけど、みんな交通ルールをきちんと守ってるよね」


 アキバは日に何十万人も押しかけるオタクの街だ。そう言えば、あの百鬼夜行、オタクの群れに見えないこともない。


「向こうからしか見えないけど、信号機を立てておいたんだ。ずっと赤信号のまんまの信号機」


「しかし、赤信号だけでよく停まったな」


「うん、ダークメイドの姿をした信号機。目が赤く点滅してる」


 なるほど、永久ではないかもしれないが、ダークメイドと決着をつける間くらいはもちそうだ。




 駅に戻って北斗を始動させると、こんどは無事に円町駅が見えてきた。



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