第101話『しらす丼のしらすって?』
魔法少女マヂカ・101
『しらす丼のしらすって?』語り手:マヂカ
しらすが旬だね
百メートル走のタイム測定の順番を待っていると、サムが呟く。
「え?」
ボーっとしているノンコが聞き返す。
「ほら、あの雲、ざるに盛られたしらすみたい」
「「「「ほおおおおおおお~」」」」
調理研の四人が間の抜けた声をあげる。
たしかに、消えかけのイワシ雲が、そう見えなくもない。雲が食べ物に見えるのは、今が四時間目で、学食の白身魚を揚げる匂いが漂ってきたことに刺激されて、猛烈にお腹が空いてきたせいだろうね。
健康な女子高生は、秋の空を見てもメランコリックにはならずに食い物を連想するのよ。
「つぎ、レーガンと渡辺!」
「「ハイ!」」
お尻の土を掃ってスタートラインに付く。
よーーーい スタート!
先生の掛け声でスタート。
十七秒後、揃ってゴールすると、本日の調理研のメニューが決まっていた。五十メートル付近でサムが提案したのだ。
「しらす丼作ろうよ!」
「しらすは?」
「昼休みに買いに行く!」
他の三人に持ちかけると異議なし、早めに白身魚のフライ定食でお昼を済ませ、外出許可をとってスーパーに向かった。
しらす 万能ねぎ 揚げ玉 かつ節 白ごま 卵ワンパック チャチャっと買って調理室の冷蔵庫にぶちこむ。
いつもボンヤリ過ごす昼休み、目的持って動くと気持ちいい。
「なんか楽しみ~」
「ノンコ、よだれ垂れてる」
「清美、教科書ちがってるよ」
「そういうサムの机はなんにも出てないけど」
「調理のダンドリ考えてんの」
「ご飯は、休み時間に仕込まなきゃ!」
放課後を楽しみにして、昼からの授業も楽しい。
ノンコ 清美 : 万能ねぎを小口に切って、しらす、揚げ玉、かつ節、白ごま、を混ぜる。
サム 友里 : しょうゆ、みりん、ごま油、ワサビを混ぜる。
その間に、炊き上がったご飯を人数分の器によそうわたし。
ご飯をよそって混ぜたのをぶっ掛けるだけだから、あっという間。
「メインはしらすだから、スピードが第一だもんね」
「「「「「いっただきまーーす!」」」」」
卵をぶっ掛け、熱々のところをいただく。
四時間目に思い付き、昼休みに特急で買い物、五時間目と六時間目の間にご飯を仕込んで、放課後の調理は三分間。
調理研の新記録ができた!
「しらすって、なんの稚魚だか知ってる?」
おいしいものを食べて幸せいっぱいのノンコに聞いてみる。
「え、しらすって名前のお魚じゃないの?」
「ちがうよ、他の人わかる?」
「え?」
「えと?」
あんがい知らないものだ。
「うなぎ?」
「さんま?」
「おきあみでしょ!」
トンチンカンな答えが返ってくる。
「日本人なら知っといてよね、イワシの稚魚だわよ」
「ああ、外人にバカにされたあ」
「イワシだったら食べれないとこだったよ」
「脂ぎってるところが苦手かも」
「イワシは、骨がねえ」
「ハハハ、みんな現代っ子だ」
「なによ、年寄りみたいに」
そう、わたしは年寄りなのだ。見かけは十七歳の女子高生だが、中身は数百年生きてきた魔法少女なのだ。しらすがイワシだってことは、ご飯のもとがお米だってくらいの常識なのだ。
しかし、まあいい。休戦状態とはいえ、M資金を巡ってカオスとの戦いが続いている。横に座っているのが、そのカオスのスパイだったりもするんだが、楽しめる時には楽しんでおかないと。
そもそも、わたしは、休養のためにこの時間軸にいるのだしね。
「しらすはともかく、自分たちが特務師団のメンバーなのだという自覚は持たせた方がいいわよ」
後片付けをしながらサムが言う。
「そうだな」
「戦局が厳しくなってきたら、ほころびが出てくるわよ」
「うう、スパイが言うかあ」
「ハハハ、今度は生卵じゃなくて温泉卵でやってみよう、いっそう美味しいわよ」
「温泉卵、大好きーー!!」
ノンコが上機嫌で手を挙げて、秋の簡単料理その一が終わった。
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