第12話『創部会』
魔法少女マヂカ・012
『創部会』語り手・マヂカ
魔界の者は自分の手で食器を持たない。
料理の方から一口分になってやってくる。
むろん、人間的に食器を使うこともできるが、それは魔界の者と知られぬためなのだ。
いわばカモフラージュとか方便というものなので、食器を使うことに特別の思いはない。
それは、料理も同じだ。
七十余年ぶりの復活に当たり、食事やお弁当は自分で作るようにしている。こういうところに手を抜かないことが人間らしさに繋がると思うからだ。調理のスキルは魔力によるものなので一級品だ。その気になればミシュランの七つ星レストランシェフや料亭の板前だって務まる。あ、七つ星というのは無かったか。とにかく凄いんだ。
凄いんだけど、魔族、魔法少女としては当たり前なので、特に感慨はない。
だから、新鮮なんだ!
調理研の創部会で、きれいな目玉焼きの作り方とキャベツの千切りを教えてやった。
友里は、そこそこにできたが、ノンコと清美はからっきしだ。
目玉焼きは、茶こしの中に卵を割って薄い白身を落としておくのがコツとも言えないテクニックだ。火の調整さえ間違わなければ、誰でもホテルの朝食並の目玉焼きが作れる。
キャベツの千切りは『猫の手』だ。左手をジャンケンのグウに似た猫の手の形にしてキャベツを押え、小気味よく右手の包丁で刻んでいく。これが出来ないと細くて揃った千切りはできない。
ノンコも清美も出来なかった。チンタラやるのは性に合わないので、ちょっとだけ魔法のアシストを加えてやる。
「「わ、できたあ!」」
二人とも宝くじが当たったように喜んでくれる。
ささいなことだが、人間がスキルアップして喜んでいる姿はいいもんだ。七十余年前、さまざまな局面で人間を助けてやった。その都度人間は喜んでくれたが、自分が成長して喜んでいるのを見るのもいいもんだと思った。
「こんなに刻んじゃって、どうすんのよ!?」
遅れてやってきた安倍先生があきれ返った。気が付くとキャベツ二玉をまるまる刻んでしまったのだ!
あ~~~~~~~(^_^;)
そこまで考えていなかった。
「よし! わたしが教えてやろう!」
先生が腕まくりした。
安倍先生は、玉子の鳥の素焼きというのを教えてくれた。
フライパンで千切りキャベツをさっと炒めて鳥の巣風にまとめる。真ん中にチキンラーメンのポケットのような窪みをつける。
「このポケットを二段にするのがコツなのよ……ほら、きれいにタマゴが収まるでしょ。あとは、ちょっと蓋をして、三十秒加熱して一分間蒸す」
なんと、食品サンプルのように見事な玉子の鳥の素焼きが出来あがった!
「すごい! めっちゃ簡単で、たんぱく質も食物繊維も摂れて、新婚家庭の朝食にピッタリですね!」
この、悪意など微塵もない友里の賞賛が空気を凍りつかせてしまった。
「し、新婚家庭の朝食な……(-.-)」
「あ、いや、そんなつもりじゃ……」
彼氏いない歴〇年の先生は深く傷ついてしまったようだ。
「すまない、ちょっと用事を思い出した」
闇魔法のかかったニンフのような足どりで、先生は調理室を出て行った。
「ど、どうしよう。あたし……」
「任せておきな、友里」
「マチカあああああ!」
けしてリーダーなんかになるつもりはなかったが、この局面では、胸を叩くしかなかった。
安倍先生は、仕事もそこそこに帰宅の道を日暮里駅に、シオシオと向かっているところだった。
実年齢は先生よりも上だし、魔法少女であるわたしは、いくらでも解決する方法を知っている。もっと美人にしてやってもいいし、モテ魔法をかけてやってもいいのだ。だが、そんな安直な解決をしてはいけない空気が、先生の後姿にもわたしの心の中にもあった。
為すすべもなく、角を曲がった先が駅前広場というところまでやってきた。
交差点にニ十キロオーバーのセダンが迫ってきた!
危ない!
とっさの魔法も間に合わなかった。
わたしは、超人的な(魔法少女が超人的なのは当たり前なのだが)ジャンプとスピードで先生を抱えると、衝突寸前で駅ビルの屋上まで跳躍した。
「やっぱり、魔法少女なんだ……」
「あ、えと……」
先生は、元気はないものの、小さく笑って頷いてくれた。
――マヂカ、こんなところにいたのか――
かすかな囁き……あとでケルベロスに言われるまで気づかないわたしだった。
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