太陽の少年-7

「……そろそろ時間ですが」

 ゴソゴソといつまでも身支度の終わらないアーシュラに、エリンが声をかける。

「わかっているわ、お前も手伝ってちょうだい」

「お支度は調っているかと思いますが……」

「そうだけど! 靴が気に入らないの。もう少し、転びにくいのがいいわ」

「はぁ……」

 あからさまに呆れた様子の従者を睨んで、少女は靴を放り出す。

「体調も良いし、走れる靴が良いのよ。今日は、牧場を案内するんだから」

「馬を自慢するのは結構ですが、走るのはおやめください。靴がどうこうではなく、お目が半分しか見えないのですよ、転ぶに決まっています」

 アーシュラは、体が不自由であることをゲオルグに話そうとはしなかった。

 友人として、同情されたくないのだという。気を使われたのでは、せっかくの心地よい関係が壊れてしまうと、彼女は心配をしているのだ。

「……では、こちらではいかがですか」

「かかとが無いと、背が低く見えるわね」

「贅沢を言わないでください」

 アーシュラがそのようなことを言い出したのは、初めてのことだ。主人の明らかな変化に、エリンは戸惑っていた。

「ああもう、仕方ないわね。では、それにします」

 アーシュラは、そんな剣の気持ちは知らず、少し子供っぽいリボン飾りのついた靴を持つエリンの方へ、きちんと揃えた小さな足を差し出した。


「うわぁ、すごいな、可愛いですね、仔馬!」

 そして、得意顔のアーシュラから城内の牧場を案内されたゲオルグは、愛らしい子馬を見て、素直に感嘆の声を上げた。

「ふふふふ、あの子のお母様はわたくしが九つのときにここに来た、それはそれは美人の馬なのよ」

 この城で今年生まれたばかりの仔馬を並んで眺める。城の敷地の隅にある小さな牧場には、方々から献上された馬や、その仔が大切に飼育されている。

「殿下は、馬に乗ったりするんですか?」

「するわよ! 上手よ!」

「へぇ、何だか、意外だなぁ……」

 実際彼女が馬に乗ることが出来るのは一年で数えるほどのことだったが、様子を見に来ることが出来る日は散歩のルートをぐるりと大回りして牧場に寄るくらいには、馬も牧場もお気に入りなのであった。

「そういえば殿下、前から気になってたんですけど……」

「なあに?」

「彼、城の中では全然姿を見ませんよね。いつも庭に?」

 ゲオルグは、少し離れた木の傍に黙って立っているエリンの方を振り返った。

「エリンはいつも傍に居るわよ? 城内では、あんまり見えないけど」

「そ、そうだったんですか?」

「だって、わたくしの剣だもの。いつも一緒に居るのは当たり前でしょ」

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