太陽の少年-6
二人はそのまま、随分と長いこと、本当にただ友人のように話をして過ごした。
そしてその日、特別に楽しい午後を過ごしたアーシュラが、話し相手としてゲオルグをたびたび城に招くようになったのは、必然だったのかもしれない。
こうして、ゲオルグ・カルサスは皇女の数少ない友人となった。
少年の暮らす遠いミラノからジュネーヴは、行って帰るだけで軽く半日はかかる。しょっちゅう行き来すること自体、決して楽なものではないはずだが、元々旅に慣れていたゲオルグは少しも苦にはしない様子で、いつも気安く皇女の頼みに応え、まるで隣町に住む友人を尋ねるように、アヴァロン城へ遊びに訪れた。
「こんにちはぁ」
彼が通用門の前に立つのは、いつも決まって昼過ぎだ。
早朝家を出ても特急に半日くらい揺られることになるので、だいたいそのくらいの時間になる。事情を分かっている衛兵は無言で門を開け、いつも、アーシュラ付きの同じメイドが出迎えた。
「遠い所、ようこそおいでくださいました、カルサス様」
何度訪れても、律儀に同じ台詞で彼を迎える。金髪をきっちり編みこんで、制服をきりりと着こなした、いかにも真面目そうな少女であった。
「君ってさ、ご主人様があんな方なのに、随分真面目だよね」
前に立って客間へと案内する、おそらく、自分より少し年下であろうという彼女に、ゲオルグは人懐っこく話しかける。少女はいつもそっけなく返すか、
「……あんな方、とは、どんな方のことでございましょうか」
いかにも不機嫌そうな返事をするかの、どちらかである。
「そりゃ……」
「殿下がどのように仰っしゃろうとも、無礼な物言いは許されません。あなたは爵位すら持たぬ身、本来であれば皇女殿下と言葉を交わすことすら、畏れ多いことなのです。その点をゆめゆめ、お忘れなきよう」
「はいはい……」
どうしてここでこんなに怒られなければいけないのだろう、というくらい、彼女はいつも不機嫌だ。けれど、ゲオルグは気にとめない様子でニコニコ笑う。
「そういえばさ、ここに来るときはいつも君が出てきてくれるけど、名前も知らないや。なんていうの?」
「は?」
「今のままじゃ君のこと、君、としか言えないなぁって」
「カルサス様……」
「ほら、君は僕の名前を知ってるのに」
人懐っこいゆるい笑顔に覗きこまれて、あんなに怒っていたメイドの少女は困ったように目を泳がせる。ゲオルグは、元々人と打ち解けるのが得意なのだ。
怒り顔のまま、少女はしばらく思案して、そして、渋々口を開いた。
「……リゼット・パーカーと、申します」
「そっか、僕ら、年近いよね」
「はぁ!?」
「怒りっぽい人だなあ、リゼットは」
「な……馴れ馴れしく名前で呼ばないでくださいまし!」
すました顔をした少女の、押し殺した怒鳴り声が、控えめに廊下に響いた。
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