太陽の少年-8

「剣……?」

 当然、ゲオルグには何のことだか分からない。その存在は、貴族達や知識人ならともかく、一般の人々に広く知られているようなものではないからだ。

 不思議そうな顔をする少年に、アーシュラも『剣』について説明をするべきなのだとようやく気付いて、口を開こうとした時だった。

「だったら、彼も一緒に仔馬を見ればいいのに」

「えっ?」

「だって、ずっと一人でこっち見てるだけだし、暇でしょう? ……って、もしかして、あまり人と話すのが好きじゃないとか?」

 ゲオルグの何気ない提案に、アーシュラは驚く、というより、呆然とした様子で、ゲオルグの赤い巻き毛が、小春日和の牧場を渡る風に揺れるのを見つめていた。

 城には、エリンにそれなりに親しく接する者は幾人か居るが、彼を自分たちと同じ人間として扱う者はいない。

 虐げられているわけではない。剣は他の者とは違う。剣とはそういうものだ。けれど――

「…………そうね」

 アーシュラは、溶けるように笑った。

「それは良いわ。エリン」

「……はい」

 アーシュラが何気なく名を呼ぶと、少年はスイと動いて少女の傍らに立った。

「エリン、三人で一緒に、お茶にしましょう。支度をして頂戴」

「三人?」

 少女の言葉に、エリンは怪訝そうな返事をする。

「そうよ、これからお茶会にするの、お前も一緒に」 


ゲオルグがアヴァロン城を度々訪れるようになって、この日ですでにひと月あまりが経っていたが、ゲオルグは未だエリンとまとも言葉を交わしたことはなかった。声を聞いたこと自体、最初に一言聞いたのと、今の「三人?」で、実に二回目だ。

 全く、不思議な少年である。

 何を考えているのか分からない端正な面立ち、光を束ねたような真っ直ぐな金色の髪。近くで見ると、余計に美しかった。ただ、天使のような容姿にはそぐわない、黒ずくめの格好をしているのが、何となく不吉で、どこからどう見ても近寄りがたい雰囲気だ。

 剣、とは、つまり護衛か何かのことなのだろうか、と、何となくゲオルグは想像する。とりあえず、皇女の付き人であることは確かのようだ。けれど、スラリと細いこの少年が兵士だとはとても思えないのだった。

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