主従のはじまり-2
柔らかな金の髪に、キラキラ輝く
「おいしい?」
「はい」
素直な返答に、アーシュラは満足そうに微笑む。
彼女がニコニコ笑ってくれると心底安堵した。どうにかしてこの主人の機嫌を損ねないようにしなければならない。道理の分からぬ幼子であったエリンだが、そのことだけは理解していた。
「オムレツと、パンと、イチゴだったら、どれが一番好き?」
「え……と」
腹を空かせている少年にすれば、正直どれを食べても奇跡的に美味しく感じたし、できれば量の多いパンをもっと沢山分けてもらえるのが嬉しい。
けれど……どうしようか。アーシュラをがっかりさせてはいけない。
今、嬉しそうに持ってきたイチゴを指名しなければ、彼女の興がさめて次の食事は持ってきてもらえないかもしれない。実際、今までも些細なことで怒らせて、食事をもらえなかったことがある。
そうなったらとても困る。これ以上お腹が空いたら、本当に死んでしまうような気がする。けれど、素直にパンが欲しいといえば、次からもっと持ってきてくれるのかもしれない。
少女が運んできてくれる食事は、いつも量がものすごく少ないのだ。
コーヒーカップが載るくらいの可愛らしい小皿に、いつもあれこれと色々な種類が盛られているものの、どれも一口で食べられてしまう程度の量で、とても食事といえるほど、腹のふくれるものではない。
どうやら、そもそもエリンのために用意された食べ物ではなく、彼女が食事をした時に、余らせたものをちょっと取り分けて部屋に運んでいるようだった。
「…………」
「どうした?」
「……その、あの……」
死活問題である。必死で悩んで、少年は答えた。
「おなかがすいているので、パンがいいです」
考えた挙げ句、素直な言葉が出た。
少女はきょとんとして、紫の目を丸くする。口をつぐんだ少女に、失敗だったかとエリンは戦慄した。けれど、予想に反してアーシュラは新しい発見をしたかのように楽しげに声をあげた。
「お前、お腹が空いているのね!」
パンかイチゴかという問題はもうどうでもいいらしい。
少年は、アーシュラにとってみれば新しく与えられた玩具のようなものである。食事を与えるようにと言われてはいたが、日に何度くらい、どのくらい与えれば良いのかなんて知らない。エリンが来る前に夢中になっていた、ままごと遊びの人形は、そんなことは言わなかったからだ。
「なら、今度はもっと沢山もってくるわ!」
目を輝かせての宣言を、エリンは心の底から嬉しく聞いた。そして、目の前の少女は何て優しい人物なのだろうと感動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます